才知

2016 年 7 月 13 日

 フランスで開催されていたEURO(欧州選手権)は、ポルトガルの初制覇で大会に幕を下ろした。7試合を戦い、90分以内に勝利したのは準決勝ウェールズを2-0で下した1試合と冴えない。

 新王者誕生に祝福の声は少なくないのが現状だ。

 例年通りの16カ国で争われる大会形式ならばポルトガルはGL(グループリーグ)敗退を余儀なくされていた。GLでは3戦3分に終わり、3位に終わっていた彼らに決勝トーナメントを戦う資格はなかった。

 今大会は24カ国に出場権が増大され、各3位にGL成績上位4カ国に決勝トーナメント進出の権利が与えられた。ベスト16ではクロアチアを延長戦の末に1-0で下し、準々決勝ポーランド戦では1-1のままPK戦の末に勝利し準決勝に進んでいる。

 その点、ポルトガルは優勝に必要不可欠な運があった。

 決勝戦では大黒柱、C(クリスティアーノ)・ロナウドを前半25分に退くが、延長後半4分にFWエデルが値千金の決勝点を叩き込んで大会初制覇を引きよせた。

 ポルトガルは90年代初頭、「黄金世代」と呼ばれた世代があった。1991年、MFマヌエル・ルイ・コスタ、FWルイス・フィーゴ氏、MFパウロ・ソウザといったメンバーを中心に母国で開催されたU-20ワールドカップで大会制覇をなし遂げた。

 あまりにも美しく、華麗なプレイスタイルで全世界を魅了した。今後のサッカー界は彼らを中心にして動いていく、とまで言われた。実際“ゴールデンエイジ”たちは、所属クラブで欧州チャンピオンズリーグ制覇をなし遂げている。

 所属クラブでは愛され、慕われ続けた彼らは現在でもオールドファンにとって色あせない存在になっている。しかし、ポルトガル代表のユニフォームをまとって優勝トロフィーを掲げる日は1991年以来、二度と来なかった。

 今大会ポルトガル代表を率いたフェルナンド・サントス監督は「良い戦いをしたものは勝利する。美しいとか美しくないとかは関係ない」と大会中に明言している。近年のサッカーシーンが追い求めた「美しさ」を否定した発言に聞こえなくもない。

 EURO2004年大会でポルトガルは、史上最高位の準優勝で終えた。そのときルイ・コスタは32歳、フィーゴは31歳で大会を戦った。決勝戦に敗れ、泣きじゃくっていた当時19歳だったC・ロナウドも今年の2月、31歳を迎えた。

 彼らと同年代になり、チームを牽引する立場にもなり、悔し涙を12年後に歓喜の涙にした。その後継者は今夏、約38億円でバイエルン・ミュンヘンに引き抜かれた18歳のMFレナト・サンチェスといったところだろうか。

 年齢詐称を疑われるほどの才能を発揮するティーンエージャーだ。美しさとは別に“良い戦い”して勝利したポルトガルの才知の系譜は、今後も目の離せない存在になるはずだ。


損失

2016 年 7 月 5 日

 たとえサッカーの知識が乏しくてもクリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシの名前は全世界が知っているはずだろう。いまさら説明不要の両者は苦悩の真っ只中にいる。

 前者は米国フォーブス誌が発表した資産価値36億ドル(約3913億円)で堂々の1位に立つレアル・マドリーのエースだ。後者は35,5億ドル(約3859億円)で2位に立つバルセロナのエースである。

 C・ロナウドは2015/2016シーズンのUCL(欧州チャンピオンズリーグ)制覇に貢献。現在はフランスで開催中のEURO(欧州選手権)ではポルトガル代表の主将としてベスト4に進出している。現地時間6日に決勝進出をかけウェールズ代表と準決勝を戦う。

 メッシはUCLではアトレティコ・マドリーに敗れ、大会ベスト8で姿を消すも国内のリーグ戦とカップ戦を制し“2冠”を達成。シーズン終了後にはアメリカで開催されていたC・A(コパ・アメリカ)にアルゼンチン代表の主将として出場したが準優勝に終わった。

 圧巻の活躍をみせた。

 グループリーグ初戦のチリ戦を怪我で欠場するも二節のパナマ戦では後半17分にピッチに立つと、わずか30分足らずでハットトリックを達成し、5-0の勝利に貢献。千両役者らしく、格の違いをみせつけた。

 最終節では3-0となった試合状況で投入されると、得点こそなかったがGKの股を抜く“妙技”をみせる。だがオフサイドのため“幻”に終わった。大会準々決勝ベネズエラ戦、準決勝アメリカ戦では先発フル出場を果たし、1点ずつ決める。

 決勝戦のチリとは120分を戦いスコアレスドローに終わり、PK戦に突入する。1人目を任されたメッシと4人目のMFルーカス・ビリアが外し、23年ぶりの大会制覇が露と消えた。

 試合直後に現在29歳のメッシは代表引退を示唆。

 所属するバルセロナでは通算28回のタイトルを獲得した天才FWも、アルゼンチン代表では優勝には縁遠い。メッシはこれまでワールドカップ1回、C・A4回、コンフェデレーションズカップ1回と計7回の準優勝に終わっている。

 バルセロナの“ブラウ・グラーナ”の縦じまでは神に愛されたように多くのタイトルに恵まれるが、アルゼンチン代表の“セレステ・イ・ブランコ”の縦じまでは神に怒りを買ったかのような罰を受けている印象が濃い。

 C・ロナウドとメッシはピッチを離れると、笑顔で話し合う間柄なのはよく知られている。“友人”の現役引退の報を受け「(C・A終了後の)彼の涙を見るのは痛ましかった。だが、僕は彼の第二の人生を理解している」と同情を寄せる。

 アルゼンチンで生まれ、バルセロナで開花したメッシのセレステ・イ・ブランコのユニフォーム姿はもう二度とみられないのだろうか。サッカー界にとってあまりにも寂しい損失になる。


奇跡

2016 年 5 月 30 日

 今シーズンの欧州の戦いが終わった。いささか昔話に聞こえてしまうが、日本代表FW岡崎慎司が所属するレスター・シティが今シーズンのプレミアリーグを制覇した。1884年創設の強豪でも古豪でもなく、悪くいえば平凡なクラブがなし遂げた奇跡に世界中が沸いた。

 そこに日本人がいて、貴重な戦力として名を残したのだから何とも頼もしい話である。マンチェスター・ユナイテッドで日本代表MF香川真司が2012/2013シーズンにプレミアリーグ制覇をなし遂げてはいるが、状況が違いすぎる。

 レスターは、各ポジションに代表クラスの選手たちがいたわけではない。また1992年のプレミアリーグ発足以降、ほとんどが優勝。3位以下になったことのない名門中の名門でもなかった。

 ふり返ると香川がユナイテッドにやって来たシーズンこそ「優勝」が至上命題となっていた年もなかった。サー・アレックス・ファーガソン氏の監督ラストイヤーに加え、前年に同じ街のマンチェスター・シティに優勝を許していた。

 半世紀以上前の1930年代と1960年代に1回ずつ優勝経験をもつシティは、ユナイテッドの「永遠のライバル」とは言ったものの、同じ街に居を構えるだけで実際には雲泥の差があった。

 ところが2007年に外資注入によって、強豪チームに変貌を遂げた。着々とチームを強化し、2011/2012シーズンに44年ぶりにリーグ制覇。しかも最終節に逆転優勝のおまけ付きだった。負けず嫌いのファーガソン氏は当然憤慨した。

 監督ラストイヤーをリーグ制覇で終え、優勝セレモニーの中に日本人がいたことも大きなインパクトになったし、歴史の1ページに名を刻んだはずだ。

 だが、岡崎の優勝は状況が違う。

 開幕前の優勝オッズは5000倍。現地タブロイド紙によると、ネッシーが発見されるのが500倍、宇宙人が発見されるのが1000倍。ロックスター、エルビス・プレスリーが実は生きているオッズが2000倍となっているから、レスター優勝の偉大さが伝わるだろう。

 今シーズンの岡崎のハイライトは、第30節のオーバーヘッドでの得点に尽きる。リーグ終盤、降格圏を脱出したいニューキャッスル相手に叩き込んだ一発は決勝点となり、1-0で逃げ切った。死に物狂いで来る相手を突き放す価値のある得点は、簡単には生まれない。

 その岡崎が日本代表として6月3日に日本のピッチに立つ。

 来月10日からフランスで開催されるEURO2016に出場しない国が来日する。そのため、真剣勝負とは言い難い。だが、日本代表の気概を持って臨んで欲しい。

 それが4月14日に熊本県、大分県を中心に起きた大地震で傷ついた方々にとって励みになるはずだ。すでにDF長友佑都を中心に被災地を訪れている。勝利を懸命に追いかける姿は、多くの方に奮起に繋がるのではないだろうか。


忽然

2016 年 4 月 17 日

 近年のサッカー界に、ノッティンガム・フォレストの名前はない。このチームが権勢を誇ったのは、1970年後期から1980年初頭までの数年である。

 1981年より東京で開催された第1回トヨタカップに欧州王者として、来日しているほどの強豪クラブである。1979年と1980年に欧州チャンピオンズカップ(現UCL)を連覇したチームは、やがてサッカー界のトップシーンから忽然(こつぜん)と姿を消してゆく。

 チームがチャンピオンズカップを連覇してから、衰退が始まったころ「ヒルズボロの悲劇」は起きる。1989年、リバプール対ノッティンガム・フォレストで起きた事故は、イギリス史上最悪とよばれるものだ。

 当時あった立見席に収容人数以上のファンが押し寄せた末に倒壊。重軽傷者766人、死者96人を出した大惨事として、現代まで語り継がれている。その日が近づくとイングランド・プレミアリーグでは試合前に犠牲者を偲んで、黙祷が捧げられている。

 今シーズンは、事故が起きた4月15日の前日の14日にヨーロッパリーグ(EL)準々決勝2ndレグのボルシア・ドルトムント戦が行われた。

 この日の試合前には、スタンドにコレオグラフィーで「96」を作り、犠牲者に哀悼の意を表した。1stレグを1-1で終え、優位に立っていたリバプールが前半に1-3とされ、圧倒的な不利になる。しかし、後半に入ると1点を返すが、すぐに1点を返され2戦合計2-4とされてしまう。

 この日のリバプールは何かが違った。怒涛の追い上げをみせ、66分、78分に得点を重ね、アディショナルタイムに突入した91分に勝ち越し点を奪った。日本代表MF香川真司を擁するドルトムントに大逆転勝ちを収め、大会ベスト4に駒を進めた。

 リバプール対ドルトムントの試合の少し前、日本時間14日の21:26、熊本県熊本地方を震源とする最大震度震度6強の大地震が起きた。

 Jリーグは16日、九州に居を構えるアビスパ福岡対アルビレックス新潟とサガン鳥栖対ヴィッセル神戸の2試合は安全面を考慮し、中止とされた。同日に開催されたJリーグの試合では「がんばれ熊本」「がんばれ九州」といった手作りのフラッグが目についた。また、九州出身の選手が涙を流すニュースも報道された。2011.3.11が起こった際も見かけた光景だが、サッカー界にできることがこれからもある。

 リバプールでは60年代からサポーターソングとして、愛されている歌がある。ヒルズボロの悲劇が起こった80年代のイギリスは、失業者が溢れ、暴力が街に闊歩(かっぽ)し、ときに死者を出し、未来のみえない混沌とした時代だったと聞く。

 そのときイギリス全土で「You’ll Never Walk Alone」が歌われたそうだ。

 2011年にも東北地方で歌われ、現在、九州地方に届けたい「君たちは1人じゃない」という歌である。


巨額

2016 年 4 月 5 日

 先月24日と29日に2018年ロシアワールドカップ・アジア2次予選を戦ったFW岡崎慎司は、アフガニスタン戦では代表通算48得点目を決め、シリア戦では代表通算出場100試合目のピッチを踏んでいた。

 この日本代表FWが所属するレスターは、イングランド・プレミアリーグ史上途方もない大記録を打ち立てようとしている。

 3日、レスターはサウサンプトンに1-0で勝利し、2位トットナム・ホットスパーが前日に引き分けていたため、両者の勝ち点差は「7」にまで広がりプレミアリーグ初優勝が日々近づいている。

 イングランドの国内リーグは1888年に産声をあげ、1992年に衛星中継の放映権により莫大な富を得ることになる大改革があり、現在の「プレミアリーグ」が発足される。

 巨額の金が動いた結果、プレミアリーグ発足から現在までの23年間でマンチェスター・ユナイテッド、ブラックバーン・ローヴァーズ、アーセナル、チェルシー、マンチェスター・シティ、の5クラブしか優勝できていない。

 ブラックバーンは1994/95シーズンの1回のみで、他は4クラブの独占状態にある。イギリスメディアが報じた2013/14シーズンの人件費をみると1位がユナイテッドで387億円、2位はシティの368億円、3位はチェルシーの346億円、4位はアーセナルの298億円と続いている。

 レスターは20チーム中19位の65億円である。この人件費を見ただけでも約4分の1で戦っている今シーズンのレスターの躍進は、途方もない大偉業だと分かるはずだ。

 この結果、英ブックメーカーが悲鳴を上げている。

 レスター優勝の開幕当時のオッズは5000倍だった。優勝した場合、大手ブックメーカーは約16億1000万円を支払わなければならない。また25人が賭けているというからチーム愛を感じるニュースである。

 仮に800円を賭けているファンでも、優勝すれば416万円が手に入る。ブックメーカーは今シーズンの後半戦が始まる1月に「半額」で払い戻しを応じているが、ほとんどのファンは拒否しているという。レスターの優勝はファンには夢のような話だが、ブックメーカーにとってまさに悲劇だ。

 夢を牽引する岡崎は、イングランドでは「肺が破れるほどのハードワーク」「献身的な」という論評が目立つ。その一方で、現在は5得点だが目の覚めるようなオーバーヘッドでチームの勝利に貢献し、着々と初優勝に近づいている。

 ドイツ・マインツ時代には、非凡な得点感覚を発揮し、2シーズン連続となる二桁得点を決めている。欧州に渡った歴代の日本人の中で、この記録は岡崎のみである。

 「日本人らしいサッカー」に答えは出ていない。ひょっとしたら、プレミアリーグで岡崎が体現しているサッカーに答えがあるのではないだろうか。
 残り6試合に注目したい。