態度

2016 年 8 月 29 日

 献身、闘志、誠実。昨季、プレミアリーグ制覇に貢献したFW岡崎慎司へ、英紙からの贈られた賛辞のほんの一部分である。

 所属するレスターを率いるクラウディオ・ラニエリ監督も「われわれの魂」とまで言わしめている。2008年に日本代表に選出以降、着々と得点を積みかさね歴代3位となる「49」を記録している。

 歴代2位のカズことFW三浦知良の「55」に迫っている。岡崎に、カズほどの存在感はなくとも、MF本田圭佑やMF香川真司ほどの輝きはなくとも、幾多の得点で日本の勝利に導いてきた。

 華麗な得点より、泥臭い得点の記憶に残る選手である一方、監督と口論する光景は記憶にない。岡崎の性格によるところも大きいはずだが、高い戦術理解度とチームの和を重んじる姿勢の賜物だろう。

 スポーツに限らず、組織の中での個人の怒りが良い方向に行く場合は稀であり、大概の場合“和”を乱す結果になる。

 ロシアワールドカップ最終予選を戦う日本代表が25日、発表された。

 ヴァヒド・ハリルホジッチ日本代表監督は、選出予定だった鹿島アントラーズのMF金崎夢生の招集を見送った。「彼の態度は受け入れがたい。全選手に伝えたいのは、こういう行動はA代表に相応しくない」と苦言を呈した。

 金崎は2ndステージ第9節の湘南ベルマーレ戦で後半25分、途中交代を命じられた。そのとき石井正忠監督が労いをこめて手を差し伸べたが、握手を拒み、憤慨(ふんがい)した様子でベンチに下がったのだ。

 この行為を見かねたハリルホジッチ監督が今回の招集を見送った。すでに金崎は、監督とチームメイトに謝罪したようだが、今後も今回の騒動により注目を集めることになりそうだ。

 どのプロの世界でも、自身のやり方で貫くために必ずしも“上司”に従順になる必要はない。だが、一回の過ちが未来を変えてしまう失態はどの世界でも起こっている。

 選手と監督が起用法を巡って、衝突が起きるのは少なくない。その“いさかい”によって、レッテルを貼られ“下り坂”を歩むことは珍しくない。だからこそ、金崎の今後に期待するものがある。

 岡崎が所属するレスターの開幕戦は、今季昇格したハル・シティに1-2でよもやの敗戦。第2節も強豪アーセナルに0-0のスコアレスドローと波に乗れなかった。

 第3節では岡崎のPK奪取などでスウォンジー・シティに2-1で今季初勝利に貢献した。ラニエリ監督も拍手を贈るなど、信頼の高さを感じさせる内容となった。

 プレミアリーグ王者に輝き、A代表では100試合出場し、これまで49得点を叩き出し、現在では押しも押されもせぬエースとなった岡崎から学ぶべきものは多いはずだ。

 ロシアワールドカップを目指す最終予選は9月1日から始まる。相応しい活躍を期待したい。


手柄

2016 年 8 月 12 日

 若年層の国際舞台U−17、U−20ワールドカップ出場を逃したリオ世代の選手たちは「何も勝ち獲れなかった世代」と揶揄されつづけた。

 それでもリオデジャネイロ五輪の出場権を懸けたアジア最終予選決勝戦では韓国に0-2から3-2の大逆転勝利を飾り、アジア王者に輝きブラジル行きに華を添えたのは今年1月のことだった。

 その後、3月の親善試合ではロンドン五輪で金メダルに輝いたメキシコを2-1で破るなど順調な仕上がりをみせていた。本大会が近づくと「OA(オーバーエイジ)枠」に誰を呼ぶかが議論される。

 この「23歳以上の選手」を招集できる五輪独自のルールを各国代表は最大限に生かす。たとえばブラジルをみると、バルセロナに所属するFWネイマール(24)を招集。金メダル獲得に並々ならぬ意志が伺える。

 GL(グループリーグ)第2節で対戦したコロンビアもFWテオフィロ・グティエレスを招集。31歳になる玄人好みのストライカーは、日本戦でも先制点を導きGL全試合で得点し、チームに貢献している。

 リオ世代にOA枠は、果たして必要だったのだろうか。

 過去を振り返ると、アトランタ五輪を指揮した西野朗監督はOA枠を使わなかった。その理由に「アレルギーを引き起こす」と答えている。

 その答えの中に、苦しい予選を勝ち抜き、28年ぶりに五輪の出場権を獲得した彼らを労う意味も1つとして含まれているはずだ。2008年北京五輪も同様である。

 今回の五輪3戦を終えた結果論ではなく、若年層のワールドカップを逃しつづけた彼らにとって、アジア最終予選は悲壮な気持ちで挑んでいたはずだ。仮に五輪出場を逃せば、負の歴史として、後世まで語られる世代となる。

 そんな重圧を背負って出場権を獲得し、アジア王者にまでなった彼らにOA枠なる“救いの手”は必要だったのだろうか。最終予選に参加しながらも、本大会に出場できなかった選手たちのことを考えると不憫(ふびん)でならない。

 公言しなくとも、苦労して勝ち獲った“手柄”を横取りされた気持ちにならないほうが不思議だ。また、今回のOAをみると五輪出場はおろか、ワールドカップ出場や海外リーグ経験といった“世界”を経験していない人選だったことも疑問に残る。

 ならばいっそのこと、人材育成のためにも次世代を担う若き才能だけで挑んだほうが日本サッカー界にとっても、選手たちにとっても糧になったのではないだろうか。

 日本サッカー協会は手倉森誠監督に2020年の東京オリンピックまで契約延長を考えているようだが、同じ轍を踏まないことを祈りたい。

 それでもリオ世代は勝ち点4を挙げた。この結果はアテネ、北京世代を上回る。日本サッカー界に着実の進歩がみられ、少なくとも今大会の慰めになったはずだ。


挽回

2016 年 8 月 10 日

 イタリアのレジェンド、ロベルト・バッジョ氏は1994年ワールドカップアメリカ大会の主役だった。背番号10を背負って出場するが、グループリーグではほとんど輝けなかった。

 しかしベスト16に入ると毎試合高度な得点を重ね、チームを決勝戦まで導く。その前年にバロンドールを獲得したバッジョの奇跡的な才能で勝ち進んだことに議論の余地はない。

 イタリア国民は、そんなバッジョを1982年スペインワールドカップ以来となる決勝戦まで導き、優勝に導いたFWパオロ・ロッシに重ねあわせた。決勝戦は90分でも延長戦でも決着がつかずPK戦までもつれると、そのバッジョがPKを外し、優勝を逃した。

 試合直後、バッジョの自宅は心ないファンによって放火された。

 リオデジャネイロオリンピック、グループリーグ第1節ナイジェリア戦を4−5で落とすと批判はあったし、中傷もあった。それでも彼らは第2節コロンビア戦で0-2から2-2に追いつき勝ち点1を獲得。グループリーグ突破に望みを繋いだ。

 同点ゴールを叩き込んだのは、このチームの背番号10を背負うMF中島翔哉だった。ナイジェリア戦が始まる前からあった彼に対する疑問の目は、試合が終わるとより懐疑的に中島に向けられるようになる。

 その一因として中島の出場時間の少なさがある。所属するFC東京での出場試合は、今季わずか4試合に留まっている。「J1で活躍できていない選手が…」といった目が向けられたのは当然だった。

 それでもリオ世代を率いる手倉森誠監督にとって、中島は欠かせないピースになっている。2012年のチーム立ち上げ当初から招集し、今年1月にカタールで開催されたアジア最終予選では難敵イラン相手に2得点を決め本大会に導いている。

 ナイジェリア戦では得点を奪えず、後半31分にピッチを退いている。コロンビア戦ではフル出場を果たし、後半29分に値千金の同点ゴールを叩き込み、監督の期待に応えてみせた。同時に、周囲の雑音を打ち消した。

 オリンピックの2試合を終えて7失点するチームは、強い、とはとても言えない。だが6得点を奪い、得失点差はわずか「-1」に留まっているのは“粗削り”を体現するチームに他ならない。

 チームが尻上がりに調子を上げているのは、スコアにも表れている。チームとしてスロースターターは頂けないが、最終節までもつれたことはファンにとって待望の展開になったはずだ。

 しかし、最終節でコロンビアがナイジェリアを破ればリオ世代の“夏”は終わる。

 彼らが日本に帰国してもバッジョが受けたような仕打ちは受けないはずだが、不幸にも失点に絡んでしまった選手たちの挽回に期待したい。昨年、U-21欧州選手権を制覇したスウェーデンは、相手にとって不足はないはずだ。


予期

2016 年 8 月 7 日

 今から26年前の1990年、イタリアで開催されたW杯(ワールドカップ)開幕戦でカメルーンが前回大会王者ディエゴ・マラドーナ擁するアルゼンチンを1−0で打ち破ると多くのサッカーファン、識者は“未来”を予期した。

 「これからアフリカの時代が来る」と口を揃えた。

 開幕戦で大金星を挙げたカメルーンの勢いは衰えることなくGL(グループリーグ)を首位通過、ベスト16で強国コロンビアも倒しベスト8に進出。イングランドに敗れたもののW杯の歴史にたしかな足跡を残した。

 4年後のアメリカW杯(1994年)ではナイジェリアが躍進。GLを首位通過、ベスト16に進出するもこの大会の主役ともなるイタリア代表FWロベルト・バッジョの奇跡的な2得点の前に力尽きた。

 アトランタオリンピック(1996年)でもナイジェリアの躍進は目覚ましく、準決勝でブラジル、決勝戦ではアルゼンチンをなぎ倒し、アフリカ大陸に初の金メダルをもたらした。この快挙は欧米に独占されていた大会王者に風穴を開けるものとなった。

 シドニーオリンピック(2000年)ではカメルーンが金メダルを獲得し、“アフリカ勢連覇”が果たされる。W杯では優勝には手が届かないもののベスト16進出国の常連になり、1990年当時の未来予想図は見事的中する。

 だが2000年を境にアフリカ勢は金メダルから遠ざかり、W杯でもインパクトを残せない存在になっていく。原因は国内、隣国の紛争、多額の運営費が舞い込むになったサッカー協会の腐敗、ビッククラブに移籍し大金を手にした選手たちのわがままと数多く存在する。

 リオデジャネイロオリンピックのサッカー競技は開会式より1日早く開幕。4−5で日本は初戦を落とした。試合後、ファンから「遅れてきたナイジェリアに…」といった声が数多く挙がっている。

 チームの主将、MF遠藤航はイージーなミスが多かったことを認め、判断がにぶかったことも付け加えている。圧倒的な身体能力を感じさせるシーンは多々あったものの、遠藤の言う「判断の差」で日本は敗れた印象は濃い。

 さらに付け加えれば、ナイジェリアの選手たちは試合に勝つことで自身の環境を変えられることを知っている。主将のMFジョン・オビ・ミケルは自身のポケットマネー約310万円をチームのために“投資”している。

 試合開始約7時間前に開催国に乗り込んでくるのは、紛れもなくナイジェリアサッカー協会の不手際である。幸か不幸か、日本のマネージメント能力は世界トップクラスにある。それでも勝ったのは“当日入り”したナイジェリアだ。

 アフリカ勢の躍進が当然となった昨今。彼らはピッチに立ったときに自分の判断で最良のプレーを選択してきたからこそ“現在のアフリカ”があるのではないだろうか。


画餅

2016 年 8 月 1 日

 アトランタ(1996年)から5大会連続でオリンピック出場を果たしているU−23日本代表だが、グループリーグを突破した大会はわずか2回しかない。

 シドニー(2000年)、ロンドン(2012年)の2大会だが、両世代ともグループリーグ初戦に勝利しているのは偶然ではないだろう。8月4日に開幕を迎えるリオデジャネイロオリンピックも初戦での勝利がメダルへの第一関門となる。

 ロンドンでは44年ぶりのメダル獲得を目前に迫ったが、韓国に敗れ4位に終わる。釜本邦茂氏を擁した1968年メキシコオリンピックの銅メダル獲得以来、毎回メダルを期待されるが48年が経った現在でも先人を越えられていない。

 アトランタ大会でブラジルを破った日本代表を率いた西野朗監督がブラジルを1−0で破り、のちに“マイアミの奇跡”と呼ばれる金字塔を打ちたてのは1996年のことだ。

 その当時にこの世に生を受けた子どもたちは、今年20歳になる。この奇跡を明確に記憶している“リオ世代”の選手たちはオーバーエイジ枠を除けば、ほとんどいないはずだ。

 現地時間30日、U−23ブラジル代表と日本代表は戦い2−0で完敗を喫した。試合開始から互角に戦い、GK中村航輔のファインセーブもあり無得点のまま試合は進む。

 前半30分、暑さによるパフォーマンス低下を防ぐため設けられた2分間の“クーリングブレイク”終了直後の33分に失点。それまでの集中力がウソのように途切れ、ドリブル突破で中央を打ち破られた。その8分後に追加点を許し、試合は決した。

 多少の不運はあったとしても失点後に日本選手たちは意気消沈し、手を打つなど鼓舞する姿勢が見られなかったのがなんとも残念に映った。

 ブラジルは初の金メダル獲得に本腰を入れている。オーバーエイジ枠でバルセロナに所属するFWネイマールを招聘。日本戦でも風格があり、違いを作り、チームの潤滑油にもなっていた。辛口で知られるブラジルメディアも同国のスーパースターをこぞって称賛している。

 U-23日本代表がリオデジャネイロオリンピックで成功を納めるには、初戦のナイジェリア戦での勝利が必要不可欠だが、失点しないとも限らない。かりに不測の事態に陥ったときにうなだれているようでは48年ぶりのメダルは画餅に帰す。

 日本代表の幾人かの選手たちがブラジルに飛び立つ前「金メダルを目指します」と口にしていた。だが、金メダルを目指すブラジルとの真剣勝負に“現在地”を知れたはずだ。

 有言実行は困難だが、折れない心でメダル獲得を目指して欲しい。銅メダル獲得でも準決勝に敗れたあと3位決定戦を戦い、それに勝たなければならない。その意味では5日のナイジェリア戦は、チームの屈強さを試される最高のシチュエーションになる。