実績

2011 年 7 月 13 日

 黄金時代と呼ばれるチームにはチームを象徴し、担う選手が確かに存在する。
 
 一昔前のフランス代表にはジネディーヌ・ジダンがいた。
 世の人から黄金時代と呼ばれる程なのだからチームを支えるメンバーも豪華なのは言うまでもないだろう。
 黄金時代の左サイドバックを務め、チームを支えたビセンテ・リザラスはジダンに対し『どうしていいか分からない時はジダンに任せるんだ。そうしたら、必ずどうにかしてくれる』と語ったのを覚えている。
 興味深く、ジダンの凄さを集約したコメントの一つである。

 ジダンがフランスの伝説なら日本の伝説は間違いなく、釜本 邦茂氏の名前が挙がるだろう。
 国際Aマッチ76試合出場75得点という実績は文句の付けようがない実力を伺う事が出来る。
 その伝説の通算得点を抜き78得点と記録を伸ばしているのだから、澤 穂希は生ける伝説と言い換えてもいいだろう。
 2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会が開催されており、世界ランキング4位である我がなでしこジャパンがドイツの地で躍動している。
 難しい初戦、格下ニュージーランドに苦しめられながら終了間際の決勝弾で勝利し、続くメキシコ戦も澤のハットトリックなどで一蹴。グループリーグ1位通過を目指したイングランド戦では0-2と研究し尽くされ、隙を突かれる格好ではあったが完敗。
 敗因は一つではないが、局面、場面で誰に預けるか、預けた後に10人が如何にして動くがか課題に映った。チームが窮地に立たされた時に助けになるのがエースであり、チームの象徴でもある澤の存在が必要不可欠ならばもっと信頼し、預けても良い。
 イングランド戦は澤と同じ絵を描けていない、なでしこジャパンがそこにはあった。
 この敗戦がワールドカップ3連覇中、ホスト国、ディフェンディングチャンピオンであるドイツとの試合を招いてしまう。
 試合序盤、チーム全体の集中した守りでドイツにチャンスを作らせない。
 日本が自軍ゴール前で、ハッキリとしたクリアをせず、繋ぎ、相手にテンポを作らせない事でドイツの攻撃の精度に僅かな亀裂を生じさせた。時折見せる日本のカウンターも十分に効いていた。
 後半頭から俊足ドリブラーFW丸山 桂里奈を投入、シンプルにドイツDF陣の裏にボールを送る攻めにシフトチェンジした事でドイツが徐々に苛立ちを隠せないプレーが出始める。格下に見下していた日本に1点も挙げられないフラストレーションがホスト国、そして王者といったプライドという名の重圧が徐々にドイツを包み始める。
 しかし、地力に勝るドイツの時折見せる攻撃に肝を冷やす。一進一退と形容するに相応しい試合展開、海外メディアから「日本は女子サッカーのバルセロナ」と評されるボール回しに喜びさえ感じてしまう。
 このまま終わってもいい。とすら思えてしまう、喜び、逞しさを感じる試合展開。

 試合は延長戦に突入し、お互い大きなミスを乱発させるが疲労を溜め込んだ選手から好機を生かせずにいると、延長戦後半2分、その時はやって来る。
 澤の美しい弧を描いたループパスが丸山の足元に入ると右足一閃。日本に待望の先制点が生まれる。
 ドイツの猛攻を凌ぎ、耐えに耐えたなでしこ達は、遂にワールドカップベスト4を成し遂げる。

 前半3分、1本目のCKで日本にとって危ないシーンを作り出した14クーリッヒの負傷退場がなければ、終盤のドイツ陣営のベンチワークに大きな変化が出たのは間違いないだろう。
 そういった要素もなでしこ達を大きく助けた。
 ドイツに勝ったのだからスウェーデンには楽勝と世は言うが、スウェーデンも同じ事を思い、考えているだろう。
 ドイツに勝利し、研究され、警戒されるのは容易に想像できる。その時に澤にボール預け、10人の動きで澤を助けて欲しい。それこそがチームプレーと呼ぶべき連動だと私は考える。
 彼女が出した美しくも見事な、空間を使ったスルーパスは男子すら踏み入れた事が無い、言わば日本サッカー界にとって前人未到の地へと誘(いざな)った。

 過去に、ただの1度も勝ち得なかったドイツから勝利し、現なでしこジャパンが未来で黄金時代と呼ばれるか。
 真の黄金時代と呼ばれるにはタイトルという実績が必要である。釜本にも勿論ジダンも勝ち得た実績。
 その実績が「4位」になるか「銅」になるか「銀」になるか。
 2連勝し、負けから立ち直る修正能力。王者相手に臆せず攻め続け勝利した120分、力は十二分にある。
 未来に誇れる実績は果たして何になるか現時点で知る由はない。

 無論、私は「金」を期待する。


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