灼熱

2011 年 6 月 24 日

 昨年夏の猛暑は過酷極まりない毎日で、ある日の電光掲示板には「39℃」という数字が記録されていた。
 動けば汗が吹き出し、何をするのも気怠くなったのを覚えている。

 誰もが幼少期に仮病を使い、学校をサボった経験をお持ちだと思う。『ドコドコが痛い』と。しかし、体温計が自身の平熱を示せば親に嘘を見抜かれ、学校へ行かされてしまう。しかし、体温計が39℃を示した場合は仮病ではなく間違いなく身体が病んでいる、という事になり何人の親も学校どころではなくなり我が子を看病するだろう。
 ロンドン五輪アジア最終予選進出を懸けた戦いはそんな気温の中で行われた。

 試合開始前、ガラガラのスタンドを見て好機に思った。
 多くの選手が語るようにファンやサポーターの声はピッチの選手にとって掛け替えの無い力になる。クウェートにとって、その力が貰えないのならば、と考えていたが中東特有のバネを感じさせる試合序盤であった。
 試合序盤は押し込まれる展開が多々あり、アウェイを感じさせるジャッジングが続いたが日本の先制点でクウェートを大きく突き放した。

 誰もが39℃の高熱に魘された経験を持っているだろう。
 平気を装っても足元がフラつき、目の焦点が合わない。思考は停まり、早く床に就きたくなる。恐らく人間の本能的な部分が強制終了をかけたがっている、人間の体とは総じて危機を知らせるべく作られているのだろう。
 クウェートの地で戦った選手達もきっと同じ気分になっていた事は容易に想像がつく。

 試合は先制点を急ぐクウェートが押し気味に試合を進める。その猛攻を耐えた上での先制点は価値があり、挙げた選手にはもっと価値があった。
 酒井宏樹である。
 ホームで行われた第1戦でアウェイゴールのキッカケを作ってしまった選手の得点に喜んだのは他ならぬ本人なのは間違いないだろう。ミスは決して帳消しにはならない。しかし若い選手というカテゴリーに置き換えたのなら、そのミスを取り返す姿勢、取り返した結果にこそ意味がある。
 その後は鬼気迫るクウェートの攻撃に右往左往する場面が見られたが失点シーンは少し気になった。
 1失点目はセットプレーから、縦に蹴り込まれたボールを流され、見事なボレーシュートで同点に追いつかれた訳だが、致し方ない部分は確かにある。が、最終予選ではこのプレーが打倒日本に燃える諸国にヒントを与えた事になった。つまりは「前で競らせて後で勝負」、「肉を切らせて骨を断つ」と言い換えても過言ではない。
 上背のあるCB濱田水輝が簡単に競り負けてしまうところに若干の危機感を覚えた。13番ハレドのジャンプ力、ヘディングは素晴らしかったのは言うまでもないが、飛ばせないやり方もあったし、サンドするやり方もあった。前半の序盤なら致し方ない部分があったが、後半序盤である。相手の能力を見極めるには45分間で少なくはない。洞察力の欠如は否めなかった。
 2失点目はPKだが、招いた鈴木大輔にセーフティ・ファーストという処理能力を要求したい。VTRで確認出来るが、鈴木は一度振り向き、相手を察知している。にも関わらず足でいった事が逆に仇となった。あの状況で大きくトラップしてしまった要因は鈴木一人のみの責任にあらずGK権田修一を含めたDF陣全員の責任でもある。
 『ショッテル』というサッカー用語がある。このレベルの選手達なら知らない筈がない。敵が追い掛けて来ている状況を指し、味方が教えなければならない、言い換えれば義務である。
 義務を怠り、危険なゾーンで危険なプレーをしたツケを確かに支払った。

 関塚隆監督の選手起用にも疑問符が残った。後半、大迫勇也を投入したが先発で起用した方が良かった。この試合での永井謙佑は怪我が影響したのか、暑さ故か、明らかに精彩を欠いていた様に私には映った。本来の驚異的なスピードが見られなかったし、クウェートの足が止まり出した後半の方が相手は嫌がっただろう。
 慣れ親しんだ母国とはいえ、相手も同じ人間である、疲れない訳がない。
 点を獲りに来るのは解り切っていた、攻め疲れか守り疲れかを後半突く策もあった筈。

 試合に負け、勝負に勝つ

 この結果に私はむしろ良かったとすら思っている。あのまま前回ホームでの失点のキッカケを作ってしまった酒井が汚名返上弾を入れ、試合を1-0のまま終わってしまったら何も得なかっただろう。
 『中東を肌で感じ、試合にも勝ち、全てが万事良かった』と。

 与えた1点の重み、耐える精神力、「負けているが勝っている」という特殊な環境は滅多に経験出来ない。そして最終予選で必ず中東勢と同組になる。ひょっとするとグループ全てが中東という可能性だってある。中東という酷暑の環境で追い込まれたという経験。この試合、露呈したミスは最終予選で相まみえる相手は必ず突いて来る。
 ならば修正し、その壁を是が非でも乗り越えて欲しい。
 乗り越えて行った者だけが持てる自身の力で輝かしい未来を切り拓いて来た。

 今回の敗戦を暑さという環境のせいにするのは簡単である。大事なのは敗戦を真摯に受け止め、凡そ3ヶ月後から始まる最終予選に生かせして欲しい。

 いや、生かさねばならない。

 『負けて、予選突破を喜んでいる場合じゃない。クウェート相手に勝てないようじゃ最終予選を突破するのは難しい』と大迫は語る。
 頼もしい限りである。

 最低限のノルマを達成した今、7月7日の最終予選の組み合わせに注目したい。


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