風格

2011 年 6 月 21 日

 不安定だが、強い。

 そう例えるのがしっくり来る、ホームでの1戦であった。
 6月1日に行われたオーストラリア戦が嘘の様な試合展開であった。
 三週間程前の前半45分間は『この時、どうしたっけ』と確認しながら試合を進めていた様に見えた。久しく顔を合わせていなかった者同士が久しぶりにサッカーを興じる草サッカーを見ている様なサッカーであった。後半45分間はアジア王者を感じさせ、本来の強さを見せつけ、試合をひっくり返した。確かな王者の強さと若さ故の不安定がそこにはあった。
 個人的にオーストラリア戦を顧みた場合、エース永井謙佑の一人舞台の様な試合展開に過去に例がない過酷なホーム・アンド・アウェーの戦いに一抹の不安を拭い去れないでいた。

 「永井なしでは・・」と。

 しかし、日本は想像以上に強かった。クウェートが想像以上に弱かったと言い換えてもいいだろう。
 試合序盤はテンポの良いパス回しから多くの好機を演出する。
 キャプテン山村和也のパスが起点となり比嘉祐介の突破からクロス、ニアで大迫勇也が潰れ役になり、空いたスペースに飛び込んだ清武弘嗣が決めた先制点の形は引いて守る相手に最も有効であり、美しいゴールシーンであった。よく訓練され統一感のある連動に大量得点を期待した。
 多くを獲得しても何も感じさせなかったフワッとしたCKから切り換え、弾丸の様なクロスボールから濱田水輝のヘッドで2点目も生まれ、試合はほぼ決した。後半に入り、エース永井謙佑のポジションに入った大迫勇也が3点目を決め、次戦へ大きなアドバンテージを得た。
 エース不在の好機に、決めるべき場面で冷静に決められる能力を今後、大迫には求めたい。
 アジアトップレベルにあるJリーグでレギュラーを獲得している者、出場している者、大学生に至っては年に数回しか負けないメンタリティが邪魔したのか、選手交代が災いしたのか。それが若さと片付けるには余りに不甲斐ない決して与えてはならない余計なアウェーゴールを許してしまった。
 スケープゴートを探し出して、晒し者にする気は毛頭無い。
 明らかに流れが停滞したのは誰の目にも明らかであろう。
 原口元気のドリブルに賛否両論ある。

 あっていい。

 問題なのは原口がドリブルを開始した時に他の選手がウオッチャーになることだと私は考える。原口とユース時代からプレーを続ける選手からこんな事を聞いた事がある。
 『原口にボールを預ければ、何でもしてくれた』と語る。
 このコメントから強い自我と確かな技術が垣間見えるが、サッカーは決して1人では出来ない。代表では輝けないリオネル・メッシのそれと重なる。
 原口のみならず選手の長所を生かす献身を各々が出せた場合、現U-22日本代表は次世代の段階に入れる。

 酒井宏樹のモタつきからアウェイゴールを献上してしまった。勝っているからこそ試合を慎重に進めるべきだった。アウェイゴールは厄介なモノで相手に勇気を与え、小さな綻びが大きな決壊を生んでしまう。
 ならば、王者の風格なるものをそろそろ見たい。
 U-20ワールドカップに出場出来なくても、中国という国でアジア王者になり、先制点を許し苦境に立たされても試合をひっくり返せるメンタリティが現在のU-22日本代表には確かにある。
 決してアジアを見下している訳ではないが、本当に世界に近づきたいのならアジアで足踏みしている場合ではない。
 強い日本を見て、他国が切磋琢磨し、アジア全体のレベルアップにも繋がるのだから、もっとアジア王者らしい戦いを私は望む。

 小野伸二を筆頭に黄金世代と呼ばれた山があり、谷間の世代と呼ばれた文字通りの谷があった。谷から未だ抜け出せず、オリンピックにおいて決勝トーナメント進出した世代からは10年以上もの刻を遡らなければならない。
 オリンピックを経て、ワールドカップを経て、欧州移籍を果たす選手が増えている昨今。例え世界のビッククラブに入団を果たしても結局は個人であり、チーム全員が欧州移籍を果たしてはいない。
 オリンピックにおいてブラジル、アルゼンチンが出場すれば予選敗退などしないだろう。
 真の意味で日本が強くなったというのは最低予選突破、そういったことなのだと私は考える。
 その為には来年を見据えたチーム作りに着手し、熟成に入って欲しい。熟成を重ねる刻の中でチーム力を一段階上に上げるギアを持った新たな才能が現れたのなら、それもまた強さに、未来に繋がる。

 ロンドン世代が最終予選進出に半ば王手をかけたのは、力関係を考慮した上でほぼ間違いない。
 しかし、何が起こるか分からないのも、またサッカーである事を決して忘れてはならない。

 23日アウェイで行われるクウェート戦。
 アジア王者の風格を感じさせる、そんな戦いを期待したい。


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