思弁

2011 年 6 月 2 日

 高校サッカーにおけるベスト4からの戦いは国立競技場で行われる。

 高校選手権に出場出来た高校生達は「目指せ国立」「夢の国立」といった夢を抱き、夢の舞台に辿り着くまでに死闘を繰り広げ、やっとの思いで憧れの地に辿り着く。
 筋書きのないドラマに魅せられた熱烈なファンによって毎年の様にスタンドは埋め尽くされる。多少の悪天候でも、ほぼ満員御礼である。
 ベスト4に残り、国立で試合をした経験のある元高校サッカー選手に話を聞いた事がある。
 『ピッチに立った時の感動は一生涯の宝物。でも、ピッチに入る前のスタンドの光景の素晴らしさに固まっちゃって(笑)試合は・・前半の記憶がないんです。その位、緊張してましたね。ハーフタイムに監督にカツを入れられ正気に戻ったんですけど、後半になってからは成す術無く、敗れました。相手は俺等と違って何度も先輩達が国立を経験してる高校だったし、、経験豊富である事は間違いなかったんですけどね、やっぱり経験なんですかね。』と微笑み、当時を振り返ってくれた。

 言うまでもなく人の経験とは体感しなければ無論、身体にも、そして心にも染み付かない。

 2012年ロンドンオリンピックを目指す、若き日本代表達のオーストラリア戦の前半戦は散々たる内容であった。
 開始早々のカウンターで1点を失い、せっかくボールを奪っても目を疑うようなミスを連発させる。ビルドアップをする際にDFラインやボランチが凡ミスを繰り返しては攻撃には成り得ない。
 守備に至っても、軽い守備が目立った。ガツッとぶつかるべきエリアでぶつかれず、相手にリズムを与えてしまう。相手がボールを持っても他人任せでチェックに行こうともしない。イメージにある昨年の中国広州での戦いとは程遠い出来だった。
 チームのエース永井謙佑が前半終了間際に1点を返したものの、アジア王者の風格を感じさせない、そんな前半戦であった。

 着慣れた筈の青のユニフォームはサポーターの数が少なくブーイングが飛び交うアウェーだけのもので、選手各々が抱いた世間を見返したい気持ち、臥薪嘗胆の精神故に広州での優勝があった、とするならば、認められ、決して小さくない期待を背負わされた自国で青のユニフォームを身に纏い試合をするのは全く異なる緊張感と言っていいだろう。

 ハーフタイムに関塚監督のカツがあったのは間違いない。
 何をするにも、あたふたしていたチームは見違える様に立ち直り、試合をひっくり返した。
 見違える様なパス回し、自信を持ったドリブル、激しい守備、積極的なシュート。寝ていたチームは確かに起き、広州を彷彿させる位に蘇った。

 アウェーで得た誇りは自国に戻り、揺るぐことのない自信になった瞬間と言っても過言ではないだろう。

 前半戦で見せた戸惑いにも似た混乱から立ち直り、逆転勝利までの道程こそロンドンまでの道程に大いに役立ち、見果てぬオリンピックの舞台でも必ずや生きて来るだろう。

 世界への登竜門とも云われているU-20ワールドカップの舞台にも立てず、期待されずに掴んだ栄光、味わった天国と地獄は確かに蒼き青年達の心と身体に経験として染み付いている。
 ロンドン世代は「永井のチーム」と言っても過言ではない。この試合2ゴール1アシストの活躍に疑いの余地はない。しかし、永井もスーパーマンではない。怪我もするし、スランプだって起こりうる。
 永井がいない時に如何にして試合を進めるか。

 それだけが現在の課題とも言える。


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