趨勢

2011 年 5 月 29 日

 写真とは不思議な物で、その写真を見れば記憶が蘇って来る。
 生きなかった時代の写真も記録が蘇って来る訳なのだから、写真とは不思議な物である。

 セピア色の写真でウェンブリー・スタジアムに向かう観衆が列をなしている写真を見た事がある。
 何処が道なのかも分からない位の大勢の人で埋め尽くされ、大勢の観衆の手にはドイツの国旗とイングランドの国旗が目に入る。1966年に行われたワールドカップイングランド大会の決勝戦前での写真である。
 きっと、あまりに壮大な光景を見たカメラマンがシャッターを切ったものと思われるその写真はサッカーの聖地と云われるスタジアムへ向かうファンの熱気が確かに伝わって来る。
 2011年の同時期、大勢のファンが列をなしてウェンブリー・スタジアムに向かっていた。サッカーの聖地で欧州一を決める戦いを見れる期待、興奮、今朝は映像から熱気が伝わって来た。
 1966年とは違い、組織の巨大化、通信網の発達により全世界注目の一戦となった欧州CL決勝戦FCバルセロナ(以下バルサ)vsマンチェスター・ユナイテッドFC(以下ユナイテッド)。
 試合は序盤からユナイテッドが果敢にプレッシャーをかけ、バルサは“らしからぬ”ミスが続くが時間が経つに連れ、徐々に普段のペースを取り戻していく。捕りに行っては躱されるユナイテッドはDFラインをズルズルと下げてしまう。こうなってしまうとバルサの独壇場である。
 今季、CLにおいて唯一バルサに黒星を付けたアーセナルはポゼッションに臆さず、勇気を持ってDFラインを押し上げ続けた。故に終盤の逆転ゴールがあったのは誰の目にも明らかな事実である。
 DFラインを下げ、中盤に広大なスペースを作ってしまっては真綿で首を絞める様な攻撃の格好の餌食になってしまう。
 そんな中でも同点にし1-1で前半を折り返せる辺りがユナイテッドの底力と言っていいだろう。
 迎えた後半、前半パスを多用していたメッシが左足一閃、前半のパスの数々が布石とも取れる強烈なミドルシュートで追加点2-1。あれだけ興奮するメッシもCLの決勝戦という舞台が作り出してしまう興奮なのだろう。
 今季バルサに加入したビジャが美しい追加点を決め3-1、バルサが2年ぶり4度目の欧州制覇を成し遂げた。

 これで、ジョゼップ・グアルディオラ監督が就任した3年間で2度目の欧州制覇を果たした訳だが、昨年アイスランドでの噴火の影響とフランスで列車のストライキの可能性を考慮し1000kmの距離をバス移動をさせられた。もし、飛行機移動でミラノに乗り込んでいたら、と考えると恐ろしいチームである。
 バルサの強さとは一朝一夕には作れぬ強さであり、切ったり貼ったりしているチーム作りでは不可能に近い。
 ヨハン・クライフが率いたバルサはドリームチームと形容され世界中から恐れられた。しかし、どんな時にも終わりは来る。
 ドリームチームの終焉の一端を作ったのはCL決勝においてのミランとの一戦が挙げられる。その敗北が時代とトレンドを再びイタリアに移り変えていった。
 現在のバルサに勝ったチームこそが次のトレンドを担うサッカーなのだと考えられる。
 何十年も懸け、現在のバルサを創り上げたのなら欧州に限らずJリーグも下部組織に力を入れたチーム作りを期待をしたい。
 いつの時代もトレンドは移りゆく。しかし、バルサが長年力を注いだ下部組織の育成だけはトレンドなどと呼ばず、今後のサッカー界の定番になって貰いたい。Jリーグのサンフレッチェ広島も用いている事から世界中も真似ていって欲しい。チームの色やアイデンティティが見え、より一層の楽しみが増すと私は考えている。
 サッカーの新しいトレンドに期待し、発掘していく作業もまたサッカーというスポーツの持つ楽しみの1つに私は数えたい。

 「STOP THE BARCELONA」
 移籍が噂されていたジョゼップ・グアルディオラ監督が続投を決め、来季の欧州サッカーシーンのテーマは今季終了時に既に決まっている。
 来季の欧州サッカーからもまた目が離せない。

 2011年、ウェンブリー・スタジアムに向かう熱気に帯びた観衆を捉えた1枚の写真を今朝、何処かのカメラマンが撮っているかも知れない。
 45年後に、もし私が生きていてその時の写真を仮に見たとする。
 今朝行われた試合をどう回想するか。

 私は『バルサが異次元の強さを発揮し、偉大なGKファン・デル・サールのラストゲームだった試合』と回想するだろう。
 前評判に恥じぬ、素晴らしい決勝戦であった。


コメントをどうぞ