埼玉を制する者は全国を制す。
今から何十年も昔、高校サッカー界でそう呼ばれた時代が確かにあった。
古くから世界のサッカーシーンで常識になっている「ホームでの引き分けは負けも同然」という事実。
弱き者が強き者をホームに迎えた時には当て嵌らないが、一度でもその国のリーグ制覇を成し遂げたチームならば当たり前の勝利の責務、俗に云う勝者のメンタリティであると同時にチームのプライドでもある。
その責務の連続こそが、より屈強な強き者を創り上げる。
終着駅である浦和美園駅に近付くに連れ、赤いユニフォームを見に纏った老若男女が続々と電車に乗り込んで来る。
浦和レッズという誇りを胸に電車の中で燥いだり、騒いだり、前節の戦い方を賞賛したり愚痴ったりしている。中には緊張している面持ちのファンまでいて、そんな光景を見るのがたまらなく嬉しい自分がいる。
終点に近付くに連れ、社内が静まり返っていく。
浦和美園駅から埼玉2◯◯2スタジアムまで続く道程。普段なら少しではなく絶対に長い道程が試合当日の日ばかりは心地良かったりもする。
今日、行われた試合は鹿島アントラーズのホームスタジアムであるカシマサッカースタジアムが被災した為、ホームとアウェーを入れ替えて浦和のホームである埼玉2〇〇2スタジアムで行われた。
配慮ある浦和の行動には頭が下がる。
試合は鹿島の大黒柱である小笠原満男を欠く鹿島が先制点を挙げる。右のサイドバックの西大伍が粘り、先制に成功する。
浦和も個人の素晴らしい突破からチャンスを見出そうとするが4月24日に見られた美しい連動性が全く見られず「チームで崩す」といった攻撃がまるで見られず、攻撃が淡泊で、そして単発に終わってしまう。
現代サッカーで横にドリブルする際、重要なのはツータッチ内でボールを動かす事が必須であり、一人で何タッチもしていては相手に囲まれ、パスコースを遮断されてしまう傾向にある。
浦和はその事に気付いていても、受け手の動きが停滞している為、出し手の手詰まり感は否めなかった。
後半が始まり、浦和はエスクデロ セルヒオに代えマゾーラ、鈴木啓太に代え山田暢久を投入。時折見せる原口元気の鋭いシュートやドリブル突破を見せ、流れを引き寄せるキッカケを見出そうとする。
ドリブル突破の後にDFラインの裏に「フワッ」と浮かしたオシャレなパスを出したりしていたが、もっとシンプルにシュート力があるのだから積極的にシュートを打っても良いシーンが多々あった。世界から注目されていると聞くが、得点を決めなければスカウトの目に止まらないのは言うまでもないだろう。
鹿島優勢の流れは変わらず次々に好機を演出する。62分、鹿島の完璧な崩しから増田誓志が追加点を決め0-2とする。
試合の流れから、試合は決したかに思われたが64分に柏木陽介に代わり高崎寛之を投入。
この交代が大きく試合の流れを変える。
投入された3分後の67分、高崎の見事なミドルシュートで1点を返す。
サッカーというスポーツは面白いもので1点入ると試合の流れは大きく変わる。先程までの浦和が嘘の様な流れから2分後の69分、マゾーラの同点ゴールを決め試合を振り出しに戻す。
その後、両チーム決勝点を決めるべく奮起するがゴールまでは至らず、2-2のドローで試合を終える。
毎回思うことなのだが、浦和ホームで行われる相手はいささか気の毒である。容赦の無いブーイング、そして相手が時間稼ぎをしようものなら浦和サポーターは容赦しない。怒号が入り交じったブーイングは第三者が聞いても嫌な気持ちにさせられる。
そして何より浦和が1点を決めた時に湧き上がるスタジアムを揺らす歓喜の爆発は相手チームを萎縮させてしまう。
この試合、永年チームを支えたベテラン選手達を欠いた鹿島が0-2から1点返され、スタジアムの雰囲気に萎縮したが故に浦和の同点ゴールを許した、と私はみる。
この試合を裁いた主審は今や世界でも指折りに数えられる西村雄一氏であったがスタジアムの雰囲気からか精細を欠いた様に私には映った。これも浦和サポーターが作り出す雰囲気の凄さなのだと私は捉える。
浦和にはサッカーが根づいている。
試合終了間際、浦和GK 山岸範宏が何故か時間稼ぎをしていた。ベンチからの指示が出ていたとは思えなかった。試合を観ていた誰もが「何故?」とクエスチョンが浮かんだシーンである。その時、味方である浦和サポーターからブーイングをされていた。『おい!早く出せよ!!』と多くのサポーターが怒鳴っていた。0-2から試合を振り出しに戻し、終盤に退場者を出しても勢いがあるチームを察してのブーイング。
素晴らしい行為に思う。そして、何より嬉しかったのは場内アナウンスで試合のスコアが発表された時に起きたブーイングは試合に納得していない表れそのものである。
お荷物と呼ばれた時代からアジア制覇を成し遂げたチームの歴史、強さであり、そして魂に思う。
浦和にはサッカーが根づいている。
埼玉2〇〇2スタジアムが醸し出す雰囲気は日本一と言っても過言ではないだろう。