目線

2011 年 1 月 14 日

前節、日本相手に好勝負を演じたヨルダンが前回大会ファイナリストであり、アジアの強豪サウジアラビアを破ると真っ先に思い浮かんだのは「ある種」の危機感であった。
サウジアラビアは94年ワールドカップアメリカ大会で世界を驚かせ、中東の雄としてアジアサッカー界をリードして来た存在。
前回大会の準決勝でイビチャ・オシム政権の日本代表を破ったのもサウジアラビアである。

「ヨルダンが強い」という妙な安堵感と共にグループリーグ2節シリア戦がキックオフを迎える。
前節と同じ4-2-3-1の布陣で望み、前節に比べるとパススピードと共に判断のスピードも数段に上がり「3」の部分のポジションチェンジも盛んに見られる。しかし、サウジアラビアに勝利し勢いに乗って日本も喰ってやろうと意気込むシリアのカウンターは迫力があり、予断が許されない立ち上がり。11分に前田遼一の惜しいヘディングシュートを見舞うが、得点には至らない。
前節の失敗をしっかり修正している事、好守の切り換えの早さ、特筆すべきは本田圭佑のフリーランニング、プレーエリアの動きの幅であろう。本田の突破から先制点に結びつくわけだが、前節に比べると別人の様であった。
選手も監督もファンも是程、タフな後半戦を経験するとは思いもしなかったであろう。
共通理解が感じられるパス回しから、追加点が欲しい日本ではあったがなかなかゴールを割れない。
前田が突破したものの決められず、直後ロングスローから川島永嗣に当たりCKになったシーンは見逃してはならない。各個人の技術向上により今やロングスローもセットプレーの一つである昨今。ニアサイドに来たボールは誰が処理し、ファーサイドは誰が処理するといった「約束事」の徹底が急務に思う。
20分、香川真司と岡崎慎司が交代した際ザッケローニ監督が抱く選手に対する哲学が垣間見えた気がした。なかなかチャンスを演出する事の出来ないナンバー10を躊躇なく交代に踏み切る。守備で頑張れる岡崎の投入が後々、あの好機を迎えようとは誰が予想出来ただろう。
再三の好機に2点目が入らない、入れられない展開が自らの首を締めてしまう。
後世まで語り継がれるであろう事故が25分に起きる。
長友佑都の不用意な判断ミスからピンチを招いてしまう。DFにはセーフティファーストという鉄則があり、「第一」にやらなければならない事を怠ると大きな代償を支払わなければならない。
不可解な判定ではあったが、長友が川島に譲らなければ事故は起きなかった。
川島が退場し、前田と西川周作が交代し、誰もが西川に期待したと思うのだがPKは決められてしまう。あの状況でアップ無しで試合に放り込まれる西川の心境を思うとかなり「酷」に思う。シュートの質が素晴らしいのもあったがコースを読んだ西川は賞賛に値する。
PKを決め、シリアはMFに代えFWを投入し勝ち越しを狙いに来る。数的不利に落ち入り、同点とされたが焦らず冷静さを失わなかった日本にはいささか驚いた。
球離れが早くなり、縦に早く前線に当てる攻撃からチャンスを見出だす。
岡崎の粘りからPKを奪取、本田のPKは幸運にも恵まれたが勝ち越しに成功する。
後世まで語り継がれるであろう激闘を制したわけだが各スポーツ界に共通し、苦しめ続けられる「中東の笛」に試合を投げず、最後まで諦めず、勝ち切った日本代表。何より「勝つイメージ」が出来たのは非常に大きい。
試合前、民法放送を観て思ったことがある。
良いイメージを持たせるのは良い事だが、イメージさせているのは毎回「奇跡」。
今の日本代表の目線の行く先がアジアの盟主ならそれで良い。
しかし、今は誰の目線の先も世界で勝つ事を見ている。ならば、アジアでは「奇跡」など期待せず、「奇跡」とは程遠い内容で勝ち切る。世界で勝とうとするのなら7年も前のアジア下位と演じた接戦を何度も見せていたら意識は、目線は、世界には向かない。
世界中の試合が観れる昨今、日本代表戦を観る多くのファンの目は肥えている。
心から応援しようとする気持ちが誰もが持っている。
きっとこの感情こそが俗に云う「ナショナリズム」なんだと思う。
奇跡を期待するのではなく、戦術の向上、技術の向上に目を向けて頂きたい。
「何が向上し、世界を相手にした場合に何が足りてないのか」そういった目線が明日の日本代表を、明日の日本サッカー界を構築していくのだと私は信じている。
前節104位の相手に引き分け、今節110位の相手で勝ち点3以上に得た物は大きい。
FIFAランキング29位に位置する我が日本代表。アジアを相手にした場合、誰もが日本の「横綱相撲」を期待するが、相手を見下さず、今日の様な試合をキッチリ勝ち切る継続性こそを期待して頂きたい。

88年かけて先人たちが築いた得点もこの試合の勝ち越し点で通算1000得点。
メモリアルゴールを決めた本田圭佑。
前節の悔しさを晴らし、動きに躍動感が出てきたナンバー18にはこの大会、誰もが期待しているのではなかろうか。

前節出た課題を大方修正し、今節出た課題も修正出来るか否か。
失ったアジアの盟主の座を奪還するまでの道の先はまだまだ長い。が前節、見えて来なかった道程が見え始めたのも事実である。


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