配慮と責任

2011 年 1 月 3 日

「甲子園の怪物列伝」的な番組があると江川 卓氏の高校時代の映像が流される。
怪物の名に相応しい「ホップするボール」が古い映像からでも見て分かる。
技術、実績、記録と非の打ち所の無いピッチャーなのだが、チームメイトと軋轢があったという話を耳にした事がある。

今日、青森山田高校と滝川第二高校の試合を観戦させて頂いた。
10:30に会場入りした友人から聞いた話なのだが、その時から既に長蛇の列が出来ていたそうだ。
11:00開場を待つ高校サッカーファンが長蛇の列を作り、注目の1戦という事が伝わって来る。
昨日の様に立ち見のお客さんが出て、超満員に膨れ上がった西が丘サッカー場。
目の肥えた記者からも「異次元」と言わしめる柴崎岳。
注目の試合はキックオフを迎える。
試合慣れした両者であったが前半10分にカウンターから滝川第二10 樋口寛規が先制する。
ハンド気味ではあったが、青森山田に運が無かった様に思えた。
先制を許した青森山田は攻勢を強める。
しかし、GK 中尾優輝矢の好守、高いカバーリング能力と集中力、結束力の強いディフェンス陣の踏ん張りで前半を無失点で乗り切る。
後半、青森山田の誰よりも早くピッチに入った柴崎にスタンドが湧く。
後半が始まり、一進一退の展開が続くが青森山田の攻撃が中央に集まった事もあり、シュートまでなかなか結びつかない。
不可解な判定もあったが、そこはチームの誰よりも経験豊富なキャプテンにチームを落ち着かせて欲しかった。
後半終盤のシュートもポストを叩く。
DFを1枚減らしFWを1枚増やしたが、カウンターから追加点を許し試合は決した。

観客席から『審判のせいで負けた』『柴崎が巧すぎてチームメイトがついてってない』といった声を聞いた。
高校生の大会で前者は間違いであるが、後者は間違いではない。
確かに巧い。しかし、サッカーというスポーツは団体競技である。
巧い選手、エースと呼ばれる選手は「チームを勝たせる責任」をまわりから自然と背負わされる。
昨日の試合は2-0で勝利し、間違いなく柴崎が全得点に絡んだ。
しかし、負けた時だけチームメイトの責任ではサッカーというスポーツが根本から揺らぐ。
確かにチームメイトが柴崎に依存し過ぎた部分は否めない。
だが彼はジネディーヌ・ジダンではない。
まだ18歳の日本人青年である。
試合をしながら、相手の弱点を見つけ、ゴールへの最短距離を描ける程の経験を持ち得ていない。
その事を決して忘れてはならない。
この悔しさを、経験を、プロサッカー選手という大海原を航海する上で糧にして貰いたい。
高校サッカー選手権で大会前から「怪物」と呼ばれた選手は何人もいた。
しかし、その評価のまま頂点を極めた者は数人しかいない。
「怪物」のチームメイトも、また「怪物級」だったという事実を忘れてはならない。
サッカーは決して1人では出来ない。

美しい光景を目にした。
録画してあった前回覇者山梨学院高校と駒大高校の試合をテレビ観戦した。
山梨学院高校が1-0で勝利するのだが、終了のホイッスルと同時に倒れ込み、うな垂れる駒大高校イレブンに山梨学院高校のイレブンが健闘を讃え、手を差し伸べ、倒れている選手を打き抱えて起こしていた。
前回大会、初出場初優勝の快挙を成し遂げたサッカー部は選手権敗北の悔しさを未だ知らない。
この大会に出場が夢という選手もいる。
初出場の駒大高校の殆どの選手が夢であっただろう。
その夢の大会で3回戦まで勝ち上がって来た敗者への配慮。
そういった事が、世代が変わっても出来る強さ。
山梨学院高校の強さが垣間見えた瞬間に思えた。

前回大会、青森山田高校は山梨学院高校に決勝戦で敗れた。
スタンドに挨拶を済ませ、チームと凡そ10メートルも先に1人歩いていた柴崎。
来年を見据えた姿に思えた。
今年も同じ光景を目にした。
ロッカールームに戻る際も同じ光景を目にした。
絵になる選手に思う。
しかし、主将になった今年、泣き崩れる仲間を労って欲しかった。
団体競技のエースには、主将には、仲間を労う責任があると私は信じている。

怪物と呼ばれた江川卓氏も高校時代最後の甲子園で延長押し出しで甲子園を去っている。


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