反故

2016 年 10 月 10 日

 後半アディショナルタイム。MF山口蛍が放ったシュートがゴールネットを揺らしたその瞬間、埼玉2◯◯2スタジアム全体が歓喜に包まれた。日本は土壇場でイラクを2-1で沈めた。

 怪我にも泣かされ6試合でドイツ挑戦を終え、わずか半年でセレッソ大阪に戻って来た山口に下された世間の評価は冷たいものだった。その選手が決めた日本を救う一発は今後の展望を明るくし、自身の再評価を示すにも充分過ぎる一撃だったはずだ。

 ロシアで開催される2018年ワールドカップ出場を目指す日本代表は、UAE戦で1-2によもやの敗戦。過去のデータをひもとけば、最終予選の初戦に敗れた国がワールドカップ本大会に出場したことは過去に一度もない“負の歴史”があるようだ。

 長らく日本代表を支えるMF本田圭佑は「逆に、初戦負けて出た歴史がないということを聞かされると燃えます。本戦出場という結果で証明したい」と逆に火がついている。

 タイで行われた第2戦では0-2で勝利したものの、選手のコンディションにバラつきがあり、チームの方向性を不安視される内容だったのは誰の目にも明らかだったはずだ。それでも最終予選での初勝利はひとまず落ち着きを取り戻せたはずだ。

 攻撃パターン、得点シーンを見ても強者に必要な“連携”を感じさせなかった。これから日本代表が、負の歴史を変えられるチームになれるか否かは、コンビネーションを増やすことが急務となるはずだろう。

 それでもMF原口元気の存在は際立っている。

 イラク戦でも先制点を決め、タイ戦に続く2試合連続で得点を記録した原口の躍動は目を引いた。勝ち越しを狙ったイラク戦でも後半終了間際にも縦に仕掛け、相手を置き去りにしたドリブルは技術の成熟だけでなく精神力の強さを示した。

 原口はかつて2012年、ロンドン五輪ではメンバー選考に漏れた選手だ。その直後に行われたJリーグでは得点後に涙を流した男は2014年ドイツに渡り、今シーズンはチームの中心選手になっている。

 ドイツ有力誌、国内ナンバーワンの呼び声高い「Kicker(キッカー)」に開幕戦から2試合連続でMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選出されるなど異国の地でも評価は“うなぎのぼり”のときにある。

 ヴァヒド・ハリルホジッチ監督は日本代表監督に就任すると「試合に出ていない海外組は使わない」と公言していた。しかし、現在はそれを反故(ほご)にしつつある。

 しかし、鹿島アントラーズのMF永木亮太を初選出するなど、監督の真意は測りかねる。長らく日本代表を牽引してきたのは2008年北京五輪組だが、ロンドン組にシフトチェンジする時期に来ているのかもしれない。

 日本代表にはそのとき好調な選手を選んで欲しいのは、ファンの最たる願いではないだろうか。


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