信頼

2015 年 5 月 29 日

 MFシャビ・エルナンデスがバルセロナを去る。

 バルサ一筋17年、獲得したタイトルは23を数える。代表でも前人未到のEURO(欧州選手権)、W杯、EUROの“3連覇”に貢献した。代表とクラブで偉大な足跡を残した170cmの小柄なMFは今夏カタールのアル・サッドへの移籍を決断した。

 ルイス・アラゴネスはシャビを世界的な選手に育てた一人だろう。昨年2月にこの世を去ったスペインの“巨星”は2008年に44年ぶりとなる欧州制覇を成し遂げた。

 シャビが無名の頃に「ここ(代表)では君が指示を出すんだ。批判があっても全て私が受ける。君は思い切ってプレーしてくれればいい」と信頼を寄せ、シャビも「彼の信頼にピッチで応えようと決意した」と語る。

 「彼の指導の下、僕たちはボールで革命を起こしサッカー界の流行を変えた。美しいプレーと勝利は両立することを世界に向けて証明することができた」とチームの方向性を賞賛する。

 アラゴネスは2004年にスペイン代表監督に就任。

 当時のチームには絶対的エースFWラウール・ゴンサレスがいたが2006年ドイツW杯敗退を機に招集を見送る。さまざまな批判に合うが最後まで決心を曲げることはなく、欧州制覇によって批判をかき消した信念の男だった。シャビは「あの優勝がなければ、その後の優勝もなかった」と語っている。

 ただ、言葉が汚いことでも有名だった。

 「売春婦のガキども!相手をやっつけてこい」と試合前に発破をかけ、小柄なMFに対しては「おチビちゃん、ボールを持ちすぎるな」と叱る。小柄な選手を選んだのは他でもない彼本人なのだが、悪いプレーに対しては汚い言葉でののしった。

 それでも選手からは愛された。

 相手選手の名前を間違えて指示し、試合に出場しない選手たちに「絶対にマークを外すな」と怒鳴る。選手たちは笑いが止まらなかったそうだ。真相は現在になって知る術はないが、アラゴネス流の人心掌握術だったのだろう。

 アラゴネスは2008年の欧州制覇後に勇退したが、2010年南アフリカW杯直前に怪我を負ったシャビを心配してバルセロナにも訪れている。リハビリの最中にも「シャビ、急ぐんだ。ぐずぐずしている場合じゃない。私は君がピッチに立つ姿を待ち望んでいる」と、激励の電話を何度も貰ったという。

 スポーツ界には美しい師弟関係があり、美しい物語がある。サッカー界も例外ではない。

 先日、そのサッカー界を取り仕切るFIFAの汚職事件が発覚した。かねてから金銭にまつわる黒い噂がたえなかった“巨象”にこれから司法のメスが入るという。

 今年はサッカー界を彩った多くの選手たちが第一線をしりぞく。この汚職事件はそれらに水を差すが、今後のサッカー界を見据えると是が非でも大なたを振ってほしいものである。


コメントをどうぞ