航海

2014 年 6 月 30 日

 アルベルト・ザッケローニの日本での航海は終わった。

 4年前、このイタリア人が監督に就任すると、その船出は鮮烈だった。強国アルゼンチンから日本代表史上初勝利をあげ、その後16戦無敗の新記録を達成する。その記録の中にアジア杯制覇も含まれた。

 2011・3・11のあの日を境に日本国民でさえ、居を東から西に移すものがいるなか、ザッケローニは日本サッカー協会の指示より母国に一時帰国するものの、すぐに“仕事場”である日本に戻って来たのはこのイタリア人指揮官の人柄をよく示すエピソードだろう。

 W杯とは敗者にとっては至極残酷な大会である。

 グループリーグでの敗退が決まれば、どんな強国でもたったの3試合ですべてを否定されてしまう。結果こそすべてであり、結果を残さなければならないのがW杯という特性であり、宿命ともいえる。

 そのためどの代表チームでも、誰を中心に据えるか、という議論がなされる。ブラジルではFWネイマールであり、アルゼンチンではFWリオネル・メッシがそれに当たる。彼らは実際、中心としてグループリーグ突破に大きく貢献しているが、突破できなければイタリア、イングランド、スペインの“中心”たちのように非難の的となるのは避けられない。

 例外なのはFWクリスティアーノ・ロナウドだろう。グループリーグ突破はならなかったが、ポルトガルは彼を本調子でなくとも中心にチームを構成した。10代の頃から代表の中心として牽引し、昨季はバロンドールを獲得、という強烈な個があるからに他ならない。多少ひらたく言わせて貰えるなら、ベストでなくとも“上の下”の選手であることに疑いの余地はないからだろう。

 現在の日本人選手にはそこまでの個がない。

 ブラジルW杯での日本代表を振り返ってみる時、たとえ個で負けたとしても、チーム力にそれほど大きな差はあっただろうか。ベストの日本代表ならば勝てた、という人がいるが「ベスト」を必要なときに出せるか、出せないかが日本の“現在地”であり、今後はより目を向けなくてはならない。

 次期監督候補には幾人の名が挙がっている。チームが不調になる時は必ずくる。常にベストな状態で試合をするのは不可能だが、ベストを維持できる監督を望みたい。人によってなのか、戦術なのかを明確にし、目の前の試合を本当の意味で「戦える」状態でピッチに送り出せる監督を何より期待したい。

 アルベルト・ザッケローニは監督として4年間育て上げた選手を信じ、また自身の戦術も信じた。W杯という集大成で結果こそ恵まれなかったが、歩んだ4年間でタイトルも獲得した。信じがたいほどの浮き沈みをみせた心優しきイタリア人指揮官は、ブラジルW杯を最後にその航海を終えた。


コメントをどうぞ