予見

2014 年 2 月 3 日

 W杯が近づくと各国からエースと目される選手の動向がチェックされ、十分な警戒もされる。出場機会が激減している事から「冬の移籍」が予想された香川真司はチーム残留を決めた。

 2010年南アフリカW杯が近づくと連日、決勝トーナメント行きを大きく左右するグループリーグ初戦で対戦するカメルーン代表のエースFWサミュエル・エトーを要注意人物にあげた。各ポジションに欧州チャンピオンズリーグで活躍する選手たちが何人いようとも「エトーさえ止めれば」といった風潮さえあった。

 ただ、エトーにはその価値があった。

 幸いにしてカメルーン代表は協会と監督と選手たちとの間で一つになれずアフリカの地でグループリーグ敗退を余儀なくされた。

 若かりし頃トラブルメーカーとして名を馳せたエトーだが、FCバルセロナに移籍するとMFロナウジーニョという盟友との出会いもあり多くを獲得した。そんな彼にイングランドのチェルシーから100億円という移籍話があった時、『そんなにお金があるならアフリカの子供たちに寄付して欲しい』と“大人のコメント”で一蹴した過去がこのFWにはある。

 トラブルメーカーを大人の選手にしたのが、マジョルカ時代に苦楽を共にしたルイス・アラゴネス監督だと本人は以前から言い、『スペインのクラブでキャリアを終えるとすればマジョルカで終えたい』と語っている。

 その監督が2月1日この世を去った。享年75歳。

 エトーが問題児だった頃、選手交代にふてくされてベンチに戻るとアラゴネスは胸ぐらをつかんで『お前は人生の分岐点に立っている。偉大な選手になるのか、普通の良い選手で終わるのか』と説き伏せた。

 08年欧州選手権ではスペイン代表を率い、44年ぶりとなる優勝に導いた。忌(いみ)嫌っていたバルセロナの選手とレアルマドリードの選手を同部屋にするなど、一つになれなかったチームに結束をもたらし欧州制覇を成し遂げたのはよく知られたエピソードである。

 アラゴネスの後を継ぎ、10年W杯、12年欧州選手権で優勝したデル・ボスケ監督も彼の残した遺産に対し、感謝を惜しまない日はない。

 エトーはアラゴネスの予見どおり偉大な選手になり、スペインが欧州を制覇した08年以来、世界のサッカー界はスペイン一色に彩った。

 先日バロンドールを獲得したFWクリスティアーノ・ロナウドにはアレックス・ファーガソンがいたし、FWリオネル・メッシにはジョゼップ・グアルディオラがいたように選手には分岐点となる監督との出会いが必至なのは言うまでもない。

 そういう過去を顧(かえり)みると香川の名を欧州にしらしめたユルゲン・クロップの存在と、その才能に惚れこんで獲得を熱望したファーガソンの勇退が今更ながらに惜しい。


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