歴史は塗り替えられる。
ジョゼ・モウリーニョに率いられたインテル・ミラノは黄金期にあり、2009-10シーズンには45年ぶりに欧州を制す。このシーズンを最後にポルトガル人監督がイタリアを離れるとチーム力も徐々に衰退の一途をたどっていく。
欧州ではドイツが席巻し、イタリアの強さは過去になりつつある。
2010年、南アフリカW杯が終わると同大会で才能を見初められた選手たちが次々と欧州に移籍する。長友佑都もその一人だった。
この小柄な日本代表の獲得に乗り出したのは、20年ぶりにセリエAに復帰を果たした小さなクラブだった。開幕戦はASローマと引き分け、次節にはACミランから金星を挙げる最高のスタートをみせるが、徐々に順位を落としていく。
転機があった。
2010年12月にFIFAクラブW杯において優勝を果たし「世界一」に輝いたインテルに長友が移籍を果たしたのだ。この時、監督を任されていたのは“日本人”をよく知るレオナルドだったのも長友にとって幸いだった。
入団会見では、『世界一のクラブに来ることができて、僕の憧れのチームだったので、とても光栄に思います』と述べた。
それでも黄金期のメンバーが毎年、櫛(くし)の歯が欠けるようにチームを去っていくと12-13シーズンにはリーグ9位まで力を落とし、5位までに与えられる欧州の舞台を逃すほど弱体する。
今季、インテルはワルテル・マッツァーリを新監督に迎える。長友にとっては5人目の監督だが、どの監督の下でもレギュラーの座を守り、今季は4ゴール3アシストを記録しチームの中心として活躍している。
イタリアに渡ってからACミランに負け知らずの長友は、22日のミラノダービーに先発フル出場し、1-0の勝利に貢献した。
黄金期のメンバーでコンスタントに試合に出場するのは10年以上キャプテンを務めるMFハビエル・サネッティとMFエステバン・カンビアッソのみである。この日のダービーでも出場した両ベテランは交代と同時にキャプテンマークを渡していった。
サネッティはカンビアッソへ、と。自身が交代を告げられると迷わず長友の下に駆け寄り、左腕にキャプテンマークを巻きつけた。
今季からインテル・ミラノは新たな道を歩もうとしている。
1908年創設のクラブは初の外国人オーナーが誕生した。つまり、近年イングランド・プレミア勢躍進にみる「外資」注入である。現在インテルは世界一ではなくとも、世界有数のビッククラブであることに変わりはない。そのチームで「日本人・長友佑都」がキャプテンマークを巻いたその日は、チームの歩みだした新たな一歩なのかもしれない。
新オーナーは『チームには3人のリーダーがいる。サネッティ、カンビアッソ、そして長友だよ』と期待を寄せている。