冒険

2013 年 9 月 5 日

 本田圭佑の夏の冒険は終わった。
 噂されていたイタリアの強豪ACミランへの移籍は実現しなかった。それでも強豪が本気で日本人獲得を希望したのは確かだ。一時は合意とまでされていた交渉は、結果的に破談に終わってしまった。

 ではなぜ、CSKAモスクワが本田を手放さなかったのか。

 CSKAは交渉におけるスムーズさを欠くのはよく知られている。かつても有能な選手たちが「旬」を逃してきた過去がある。また、新チームの入団会見では加入できたことより退団できたことに涙した選手すらいた。

 このモスクワに居を構えるチームは、引き抜きを嫌うことから「強制労働所」、「監獄」とも揶揄(やゆ)され、獲得交渉には多くのクラブが苦労を重ねてきた過去がある。

 たとえば過去にミロシュ・クラシッチという選手がいた。イタリアの強豪ユヴェントスが、このセルビア人に目を付けてから獲得までにかなりの時間を要した。本人は90年代に活躍した同郷のユーゴヴィッチに憧れており移籍は願ってもない話だった。移籍が決まる前年にセルビア年間最優秀選手賞を獲得していたが、移籍が決まった翌年にはそれまでの輝きをすっかり失っていた。

 CSKAは提示した移籍金でなければ了承しないことが多く、譲歩も少ない。そのため、飼い殺し、とクラブを揶揄するのは日本だけではない。

 ただ裏を返せば、チームが抱く本田への信頼は依然として高いのは確かではある。本田自身のモチベーションこそ心配だが、不本意ながらCSKAに残留することは悪いことばかりではない。

 今月17日から始まる欧州CL(チャンピオンズリーグ)では昨季王者バイエルン・ミュンヘン、イングランドの強豪マンチェスター・シティとの試合は、本田にとって、より高みをみる機会を作ってくれるだろう。

 我が道をゆく本田にとって、CSKAへの移籍は“これから”の日本人選手たちへ、良くも悪くも前例となったのは言うまでもない。

 移籍によって状況を悪くした日本人は本田だけではない。マンチェスター・ユナイテッドに所属する香川真司もその一人だろう。昨季限りで退任したサー・アレックス・ファーガソンによって引きぬかれた才能も今季、いまだ出場機会に恵まれていない。

 監督が変われば変化が伴うものだが、古巣ボルシア・ドルトムントやアトレティコ・マドリードといった強豪からの移籍話がありながら、本田と違い、残留を決めた本人の意志を尊重したい。

 また、ザッケローニ監督も来年のW杯終了後、母国イタリア代表監督候補の筆頭にあるという。

 戦っているのは彼らだけではないが、結果がすべてのプロの世界に生きる彼らがどんな“働き”をみせるのか。今後の躍進の分岐点となるグアテマラ戦とガーナ戦であることを期待したい。


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