通告

2013 年 8 月 9 日

 過去にこんな監督がいた。
 メディアやファンの声を投影した布陣で1990年W杯初戦を戦った。のちに優勝する西ドイツにその試合は大敗するが、結果的に周囲を沈黙させた。雑音が聞こえなくなったチームはベスト8まで進出する。

 慎重すぎる印象が強かったザッケローニ監督はそのイメージを大きく覆(くつがえ)した。それほどまでに彼らはイタリア人指揮官の心を掴(つか)んだのだ。

 8月14日にウルグアイ戦を控えた日本代表が発表され、東アジアカップ制覇に貢献した選手たちを含む23人が選ばれた。

 賛否両論はあったとしても“新たに”選ばれた選手たちはテストに合格した、といえる。選ばれても2,3人ではないか、といった情報も錯綜(さくそう)するなか、東アジア杯を機に選ばれた5人もの選出には誰もが驚かされたのではないだろうか。

 ひょっとしたら、ほぼ保証されていた“はず”のメンバーが一番驚いたのかもしれない。

 イタリア人指揮官は6月に行われていたコンフェデ杯終了を機に『全員がスタート地点に戻る』と公言していたのは周知の事実である。

 指揮官は、有言実行した。

 選ばれなかった選手たちにとっては非情な通告だが、限界が見え隠れしていたチームにとって、今後を十二分に期待させられる選出になったのではないだろうか。そしてその通告もサッカーの歴史を作ってきた、といえる。

 また、非情すぎる通告を受けた国が世界にはある。

 前途のW杯ベスト8に進出したのはユーゴスラビア代表であり、率いていたのは元日本代表監督のイビチャ・オシム氏である。メディアやファンの声を投影した、とは聞こえは良いがその「声」はやがて形を変え、戦争にまで発展していくことになる。

 1992年のEURO(欧州選手権)では優勝候補の一角に数えられながら、民族紛争により大会からの締め出しを決定させられた。W杯とEUROに因果関係はないが、今はなきユーゴスラビアという国家にとっては暗い歴史である。

 1990年W杯、ユーゴスラビア代表の快進撃を止めたのは天才ディエゴ・マラドーナを擁(よう)したアルゼンチン代表であり、1992年EUROに至ってはユーゴスラビアの代替で出場したデンマークが優勝したこともサッカーの歴史に微かだが明るくしている。

 周囲の声は、選手やチームを良くも悪くも強くする。

 今回の日本代表発表にたとえ賛否両論があったとしても、有言実行した監督に賛辞を贈りたい。結果がついてくれば言うことはないが、そう思い通りにいかないのもサッカーである。

 ウルグアイ代表は、現南米王者であり、前回W杯4位である。また、欧州各国のビッククラブの柱として活躍する選手が名を連ねる。その強豪国をいかに攻略するのか。
 “新生”日本代表の戦いに注目したい。


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