継続性

2010 年 7 月 20 日

毎回のワールドカップで私にとって優勝して欲しい国がある。
2002年はアルゼンチン。
優勝候補に挙げられながらグループリーグで敗退してしまう。
当時のアルゼンチンは未曾有の不況に見舞われ、クイズ番組の賞品は就職先という程であった。
開幕前、当時の中心選手であったベロンは言う。
『確かに我々は優勝候補に挙げられている。だが、何も勝ち得ていない。何としても優勝してアルゼンチンを、国民を幸せにしたい。』
前評判の高かったアルゼンチン、フランスが共にグループリーグ敗退してしまう大会であった。

今大会はチリに注目していた。
今年2月、大地震に見舞われたチリ。
地震の規模を示すマグニチュードは8・8を記録し、世界でも5番目の規模の地震。
阪神淡路大震災が7・3というのだから被害の大きさは容易に想像出来る。
人々は疲弊し、絶望を感じていた事に思う。
サッカーのみならずスポーツの持つ力は測りしれない「力」を持っている。

1995年『がんばろうKOBE』
を合言葉にオリックス・ブルーウェーブがリーグ制覇を果たす。
阪急からチーム名を変え、初のリーグ制覇。
野球界の名将、故 仰木 彬氏はこの時の心境を次の様に語っている。
『毎試合、毎試合、今までに感じた事の無い不思議な感覚がした』
復興を目指すファンの期待を一心に背負うチーム。
それを分かり奮起する選手。
それこそがスポーツの美しさに私は思う。

チリはブラジルに完膚無きまでに敗れてしまうのだが、トーナメント戦の難しさを改めて感じさせられた。
トーナメント戦を制するには運に恵まれないとならない。
分かり切った、この事実を味方にした国は必然的に上位に行ったと私は思っている。

運を味方にする。という事の難しさを遣って退ける術を私は試合の心理戦に勝たなければならない。と考えている。
オランダに敗れたブラジルは良い例に思う。
試合をコントロールする前に審判をコントロールしなければならないと私は考えている。
毎回のファールの度に喰って掛かっている様では試合を裁く審判を侮辱しているのと何ら変わりはない。
選手が簡単なミスをする様に審判だって簡単なミスをする。
選手はゴールに直結する様なミスもするし、PKだって外す。
審判だけはミスが許されない。という事自体が可笑しな話に私は思う。
自分が判断して笛を吹く。
その判断に文句を言われて、気持ちの良い審判は皆無に思う。

味方選手へのファールに対して審判に怒鳴るのでなく、訴える。
集団で囲み、訴える。
私自身、審判を草サッカーレベルで何回かやらせて貰った事があるのだが、これは実に効く。
動揺を誘う。
そういった意味で、優勝したスペインは実にしたたかだった様に思う。

今大会、賛否両論だったブブゼラの存在は私は良い印象は受けなかった。
ブブゼラの音が邪魔をして、選手同士の衝突が多かった様に思うし、コミュニケーションがしにくかった様に思う。
選手が衝突により大怪我しなかったから良かったものの、プレイの質を下げた様に思う。
そして試合会場で『今どうして吹いたの?』と聞きたくなるタイミングで吹く人が余りに多かった。
各国特有の応援歌、声援、掛け声を楽しみにしていたファンには気の毒なワールドカップであった様に思う。
元々、南アフリカの民族楽器という事実を差し引いても私は好きにはなれなかった。

ジャブラニの存在も同様に良い印象を受けなかった。
ワールドカップが開催される度に新しいボールが開発される。
理由の一つとして『ゴール数を伸ばす』というもの。
蓋を開けば、過去最低レベルの得点率であった。
『GKにとって厄介なボール』と盛んに報道されていたが、『フィールドプレイヤーにとって厄介なボール』とは報じられてはいなかった。
だが、プロである以上はボールの利点を生かさなければならない。
しかし、過去最低レベルの得点率という結果を見れば「ボールが悪かった」と思うのは私だけでは無い事に思う。

昔からスペインを応援している日本人は少なくない。
しかし、スペインファンは『自国の代表の躍進の前には盛り上がりに欠けた』と漏らしている。

今大会の日本代表を率いた岡田監督を私は未だに名監督とは思わない。
一丸となって闘う姿に日本人のみならず海外のサポーターの心を掴んだ。
南アフリカのベンチャー企業会社の社長は『日本人の様に一丸になって闘おう』と話していた。
それだけ心を掴んだ。
長所を伸ばし、チームワークの良さを引き出したのは岡田監督の功績である事は疑いの余地はない。
付け焼き刃的な戦術での勝利は「奇襲」と言っても何ら変わりはない。
奇襲は読まれれば奇襲にはならない。
故に私は岡田監督の続投を望まない。

「谷間の世代」「ドン底の世代」と揶揄された二世代の躍進が今大会の日本代表の象徴であった様に思う。
「谷間の世代」を指揮した山本昌邦氏。
山本昌邦氏の解説は実に素晴らしかった。
その山本昌邦氏が試合解説中に興味深い事を言っていた。
『1対2や1対3とかでバックパスしている様じゃダメなんですよ』と。
決勝戦でオランダFWロッペンがロングボールに抜け出した際のコメント。
真意は分からない。
だが私は『常に攻撃的であり続けろ』と解釈した。
選手の能力を信じ、縦に早く、得点を挙げる為の最短距離を狙い続ける姿勢を評価したコメントだと私なりに解釈させて頂いた。

最後にワールドカップ前の新聞の一節を紹介したい。
『韓国は初出場から初勝利を挙げるまで、6大会、半世紀近くかかっている。02大会の自国開催で2勝を挙げた日本は、苦難の歴史によって強い土台が培われる過程を飛び越えてしまい、その難しさを忘れてしまっている。
危険を恐れず自分たちの良さを出す。しかしうまく行かない時には、協力してリスクを最小限に抑える。今回はぎりぎりのバランスへの挑戦だという観点で見てほしい。世界を追いかけ回す姿から踏み出そうという勇気が、サッカー界だけでなく日本中を元気づけてくれることを期待したい。』
この記事を書いた人物は日本サッカー協会 元技術委員長 小野 剛氏である。

事実、日本中は勇気を貰い、元気を貰った。

この気持ちを忘れないで欲しい。

その気持ちの継続性こそが強い日本代表の未来の礎となると私は信じている。


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