把手

2013 年 5 月 27 日

 敗者の歴史に光が差し込むときがある。
 欧州CL(チャンピオンズリーグ)優勝チームに送られるトロフィーは高さ74cm重さ8kg、把手(はしゅ)が耳に似ていることからビッグイヤーと呼ばれ、勝者のみが掲げ、歴史に名を刻むことが許される。

 CL決勝戦バイエルン・ミュンヘン対ボルシア・ドルトムントを2-1で下し、バイエルンが12シーズンぶり5回目となる欧州制覇を果たした。

 史上初のドイツ勢同士の決勝戦は、それぞれ優勝候補をなぎ倒しその舞台にやって来た。両者ともボールをもつ相手に深い位置からプレスをかけ90分間を驚異的に走り、今後のトレンドとなり得るサッカーで勝ち上がってきた。

 昨季、バイエルンは“片耳”に手をかけた。チェルシーと争った決勝戦は83分に先制したが、土壇場の88分にCKから一瞬のスキを突かれ同点に追いつかれる。延長戦前半に獲得したPKをアリエン・ロッベンが失敗するなど好機を生かせずPK戦の末に力尽き、片耳から手を放してしまった。

 今回の決勝戦はビッグイヤーを一度も掲げた経験をもたない選手たちが争うなか、唯一“両耳”をつかんだ経験をもつのがバイエルンを率いるユップ・ハインケスだった。

 今季限りでチームを去る68歳の名伯楽は1997-98シーズンにレアル・マドリードで栄冠に輝いている。2年前からバイエルンを率い、チームの根幹をなす選手を生かしつつ的確な補強でドイツでも欧州一になった。

 一年前の決勝戦を経験し、何が足りていて何が足りていないか、を見極めた。怪我や出場停止といったアクシデントを差し引いたとしても11人中7人が2年連続で先発している。昨季は出場しなかった4人の中でもブンデスリーガ史上最高額でチームに加わったMFハビ・マルティネスの存在はチームを大きく助けた。

 屈強なフィジカルに代表されるバイエルンのチームメイトをもってして『あんなにヘディングが強い選手に出会ったことがない』と言わしめるほどの逸材は、的確なポジショニングとボール奪取でチームに勢いをもたせた。

 オイルマネーなどの資金注入を禁止し、収支の面で健全なクラブ運営を掲げるブンデスリーガにおいて4,000万ユーロの移籍金は破格の金額だ。試合結果を左右する得点を決めるポジションの選手ではなく、チームのバランスを重んじた補強は国内リーグ戦を記録ずくめで優勝した。

 一年前の決勝戦、CKからの失点で泣いたバイエルンは、一年後にFKの流れから決勝点を決めた。一年前、PKを失敗した暗い過去をもつロッベンがチームを12年ぶりとなる欧州一に導いた。

 敗者の歴史に光が差し込むときは、勝った時にしか訪れない。6月1日に行われる国内カップ戦を制せば、チームが夢にまでみたドイツ史上初の「三冠」が達成される。


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