到来

2013 年 4 月 11 日

 その選手のJリーグ初得点は「デスゴール」と呼ばれ、決められたチームは6年連続でJ2に降格してきた。“呪い”とも揶揄(やゆ)されてきたジュビロ磐田のFW前田遼一が、今季待望の初得点を記録し、おそい春をむかえた。

 日本代表FWでもある前田の心情をおもうと、いささか気の毒ではあったが「得点を決められないFW=力不足」というものはサッカー界の“常”ではある。しかし、前田ほどの稀有(けう)な重圧がのしかかったFWは、古いサッカーの歴史をひも解いても探すほうがむずかしいだろう。

 一方で、「代表選手であるかぎり、違いを見せなければならない」という手厳しい意見もある。各国代表FWをみると、より顕著ではある。

 2008年、スペインの春を到来させたFWフェルナンド・トーレスは、当時ほどの輝きをうしない、現在はレギュラーの座にはいない。スペインの優勝に終わった昨年の欧州選手権、準優勝に貢献したイタリアのマリオ・バロテッリは好調を維持している。

 今年1月までイングランドのマンチェスター・シティに所属していたガーナ移民のイタリア人FWは、誰もがみとめる実力をもちながら奇抜な素行ばかりに注目がいく選手だった。

 2月に母国の強豪ACミランに移籍すると、水をえた魚のような活躍でチームの勝利におおきく貢献する。黄金期をつくった選手たちをシーズン開幕前に大量放出したミランは、スタートダッシュにつまずき本来の順位とはちがう場所をさまよっていた。

 バロテッリは移籍後8試合で7ゴールを記録し、現在チームを3位まで押しあげる原動力になっており、イタリアでの春を謳歌(おうか)している。

 17歳という若さでセリエAデビューを果たし、周囲の予想をうわまわる活躍をつづけた彼に待っていたのは賞賛と人種差別だった。ことなる肌の色をもった若いイタリア人選手の活躍に、よしとしない相手ファンから慈悲のかけらも感じさせない野次に心をいためた過去が彼にはあった。

 また、インテル・ミラノというライバルチームに所属していた過去をもつ選手が、得点を挙げられずにいたら待っていたのは壮絶で苛烈なものになっていたのはほぼ間違いない。それでも、才能を発揮できる屈強な心と技があった。

 だからといって、それらを前田が持っていないわけではない。デスゴールについて問われると、『嬉しくない』という前田にとって本人しか知りえない重荷になっていたはずだ。先日のW杯アジア最終予選ヨルダン戦、精彩を欠いた印象をあたえたのも無縁とは言いきれない。

 春がおそすぎたのかもしれないが前田は決めた。リーグ戦における2点目をいつ挙げられるか、これからの得点こそジュビロ磐田の、また日本の助けになってくれるはずだ。


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