意思

2012 年 8 月 22 日

 2006年、「史上最強」と謳(うた)われ、ドイツW杯では好成績を期待された日本代表は1分2敗で大会を去る。加えて、これまで技術と声でチームを牽引してきた中田英寿氏の現役引退。失意にあった日本サッカー界は3カ月後、中村俊輔によって光を与えられる。

 中村は、欧州CL(チャンピオンズリーグ)グループリーグ第1節、マンチェスター・ユナイテッドのホームスタジアムで直接FKを決める。巨大すぎる相手から奪った得点にセルティックファンはもちろんだが、日本のファンも同じようにその瞬間に歓喜した。

 なぜなら、この美しいFKは同大会における日本人初得点だったからであった。

 その試合は2-3で敗れ、ジャイアントキリングには至らなかったが、世界に、十分すぎる衝撃を与えるものだった。あれから6年後、日本人選手が巨大すぎる相手の一員になることをいったい誰が予想できたのだろうか。

 イングランド・プレミアリーグ開幕戦の最終試合、エヴァートン対マンチェスター・ユナイテッドは0-0で前半を終える。後半45分の開始を告げる笛の合図とともにセンタースポットに置かれたボールを動かしたのは、日本人の香川真司だった。

 ユナイテッド入団8年目を迎え、大黒柱になったFWウェイン・ルーニーだが、生まれ育ち、選手生活をはじめたその街にある、グディソン・パーク(エヴァートンのホームスタジアム)では、極端に調子を落とすルーニーだが、それを支えたのは香川だった。

 何度もボールに触れさせ、プレーのギヤを上げるのを助けた。FWダニー・ウェルベックにも幾度となく、好パスを配給したが決めきれず、ルーニーのギヤも上がることはなくチームは0-1で敗れる。現地紙は『香川はすぐにユナイテッドの選手であることを示した』と賞賛する。
 だが、シュートや持ち味でもあるドリブルで勝負を挑む場面が見られなかったのが、あまりにも惜しい開幕戦でもあった。

 ときに窮屈(きゅうくつ)そうにプレーする赤いシャツを着た香川は、蒼(あお)いシャツを着る日本代表の香川と重なった。名将アレックス・ファーガソン監督はトップ下を指名し、その位置で先発フル出場をさせたが、及第点には達したのか。

 これから香川が、トップ下としてユナイテッドを牽引する存在になれれば、日本代表にとっても大きな光となる。現在、トップ下を任されている本田圭佑と比べるものではなく、共存する姿を誰もが見たいはずである。同じようにユナイテッドの試合中、チームメイトに動きを指示する姿を是非とも見たい。

 トップ下に求められているもの。

 技術はもちろんだが、最も大事なのは意思なのではないか。強いチームのトップ下には、意思のつよい選手が多いのは偶然ではないはずだ。


コメントをどうぞ