一時代

2012 年 8 月 10 日

 昨年のW杯決勝戦と同じ相手アメリカに1-2で敗れ、悲願の金メダル獲得を逃した。男子がメキシコに負けたときに湧きでてきた悔しさとは別の、ある種の爽快感を覚えた方もおおかったのでないか。

 大会前からなでしこたちは『男子はW杯、女子はやっぱりオリンピック』と、価値のちがいを口にしていた。
 アメリカは強かった。
 思い返せば、昨年のW杯決勝戦とは逆の展開だった。ポスト直撃のシュート、ボール1個分で外れるシュート、ドイツの地で冷や汗をかいた日本は、ロンドンの地では逆に、天を仰(あお)いだ。

 力強いドリブルからシュートコースを作られると、何度も窮地に追いこまれた昨年とは違い、組織された守備でおさえこみ、日本らしいパス回しで次々と好機をつくり続ける。
 W杯制覇から、この日まで1勝1敗1分けでむかえた両者。日本を知り尽くしていたはずのアメリカを圧倒するシーンすら見られた。球技は、ミスからおおくの失点が生まれるが、この日あたえた2失点は贔屓目(ひいき)にみても致し方ない部分がおおかった。

 体の大きさも、スピードも勝る相手から、ときに平然と、ときに苦しみながらもぎ取ってきた勝利の山に、国民は昂揚(こうよう)した。
 快挙にひとしい相手からでも勝利してきた姿は、いつからか当たり前のようになってしまったのかも知れない。実際にスタジアム観戦した者ならば分かる話なのだが、彼女たちは驚くほど小柄である。

 なでしこたちは、牛若丸(のちの源義経)で、小さな体で大きな弁慶を倒してしまうそのものだった。よく訓練された戦術で、したたかに大きな相手を倒しつづけてきた。その中心にいたMF澤穂希も代表引退をほのめかす。

 くるしい時に背中をみてきた選手たちが、長年10番を背負い続けた功労者に対し、有終の美で終わらせようと奮起したのは言うまでもない。自分たちの力で国民に目を向けさせた快挙にすがることなく、重圧の中、期待されたオリンピックの決勝戦までたどり着く力はどこから来たのだろうか。

 答えは、表彰式につまっていた。

 彼女たちは前をあるく選手の肩に手をのせ、今にもジェンカを踊り出しそうな雰囲気があり、爽快感すらあった。悔しさをにじませる事なく、笑って一時代の最後をむかえていた。
 3年後のカナダW杯ではどんな姿を見せてくれるのか。ただ、これからなでしこたちが過ごす時間に澤はいない。歴史をつくってきた女王の去ったピッチで次はなにを見せてくれるのか。
 どのチームにも、サイクルの終わりは必ず訪れるものだ。新チームの成長という楽しみはあるが、MFで史上初めてバロンドール獲得者の代表引退は寂しいものである。

 堂々の銀メダルである。胸を張って帰ってきて貰いたい。


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