台本

2012 年 8 月 5 日

 あの夏、試合の実況をつとめた山本浩氏の『笑うフリーデル、頭をかかえた中田』という名文句をおぼえている方も多いのではないか。
 「史上最強」とよばれた2000年シドニー五輪の男子代表は、失点をされてもひっくり返す、返せる、頼もしさがあった。

 サッカーファンでなくとも、あの世代を記憶している者はおおい。「海外組」が存在し、そんな選手たちでも、突破できなかったのが五輪ベスト8の壁だった。

 楽観視していたアメリカと戦った準々決勝、終了間際にPKを決められたときでも負ける気がしなかった。それでも勝つだろう、と。
 結果はPK戦までもつれ、全員成功したアメリカに対し、チームの大黒柱だった中田英寿氏が失敗し、大会を去った。

 彼らはいったい、何歳だったのだろうか。

 シドニーと日本との時差は1時間ほどだから、試合は当時、小学生だった彼らでも生放送で見れる、夜7時ころだったはずだ。あの敗戦をどのように見たかは、気になるところではあるが、12年後に自分自身が五輪出場を果たし、テレビに映っていた最強世代たちも越えられなかったベスト8の壁をのりこえ、1968年以来のベスト4進出を決めた。

 メンバーは違えど、2カ月まえに2-3で負けていた相手に、3-0という大勝、ほぼ何もさせずにベスト4入りを決めたことには、ただただ驚きをかくせない。

 どんな監督でも、台本を書く。最後には、指揮するチームが勝利でしめくくるように描く。一流の監督は「マエストロ」とも、脚本家とも言いかえられ、選手の性格はもちろん、相手選手の性格をも読みきってしまう。
 五輪全試合をつうじ、よくできた台本なのは承知の事実だろう。

 ただ、先制点をあげたFW永井謙佑の早期離脱はあまりにも痛かった。

 永井がピッチを去ってからは、いきおいを削がれ、エジプトの攻勢が目立つようになる。
 この時間を耐えたのはあまりにも大きく、MF清武弘嗣の先制点につながったGKとDFの間をねらったパスは、この日の狙い目の一つだった。

 したたかに日本は、その狙い目を突き、エジプトは2回とも防ぐことができずに、試合の主導権をも相手に与えてしまったのは、この試合の決め手となった。
 団体競技とは、平均値をこえる突出した個人がいると、勝利の確率がたかくなるのは承知の事実である。幸いにして、平均値をおおきく上回る永井のケガは軽傷ですんだ。

 小学生のころにみた最強世代ですら、体験しなかった未踏の地をこれから、ロンドン世代は歩むこととなる。
 大会前に2-1で勝利しているメキシコと決勝戦をかけ、争うこととなり楽観的にかんがえる者もおおいが、驕(おご)ってはならない。
 そうして、最強世代もアメリカに敗れた。メキシコ戦の台本をどう描くか、楽しみである。


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