一矢

2012 年 7 月 30 日

 先日、「ウクライナの矢」と呼ばれたFWアンドリー・シェフチェンコが現役引退を発表した。

 1991年のソビエト崩壊から独立した小国にとって、「希望」ともいえる選手だった。頭角を表したらしたのは97-98シーズンの欧州CL(チャンピオンズリーグ)、強豪FCバルセロナにディナモ・キエフという、ほぼ無名のウクライナのクラブチームが4-0と大勝する。翌98-99シーズンも、勢いそのままに大会ベスト4にまで駒をすすめる。守備をかため、快速FWシェフチェンコの得点で奇跡的に勝ち進み、自身は大会得点王を獲得、おおくの下馬評をくつがえす快進撃に、独立してまもない国民におおくの歓喜をもたらしたのは言うまでもない。

 4年に一度のスポーツの祭典オリンピックが開会式を終え、サッカー以外のスポーツも開催をむかえ、金メダル獲得に期待がかかった種目がチャンスを逃すと、誰もが肩を落としたことだろう。金メダルにちかい、ということは無論、「世界中が警戒をしている選手」ということを意味している。
 目にみえないプレッシャーは、体のすみずみに染みわたり、思わぬミスを呼び込む。メダルを期待されながらも、獲得に至らなかったアスリートたちは、そういった心理状態にあったと考えても不思議ではないだろう。

 ところが、まったく警戒されない競技で思いがけない躍進をみせているのが、サッカー男子だろう。世界王者の女子とはちがい、警戒されることがない。
 事実、スペインの有力紙「マルカ」は日本戦を前に、こんな記事をけいさいした。⒋hisakai (酒井)⒉Tokunga(徳永)16.famaguchi(山口)11.Nagori(永井)、arbitro(審判) 関塚。選手の表記をまちがえ、監督が審判として記されていたのだ。

 警戒されていないことがよく分かる。

 グループリーグ初戦で、優勝候補の一角であるスペインから金星をあげ、アフリカの雄モロッコと第2戦をたたかった。組織的で、よくまとまったそのチームは、勝利を虎視眈々(こしたんたん)とねらう、虎そのものだった。
 日本がすこしでも気をぬいたのなら、逆の立場になっていたはずだ。
 たのもしくも勇敢に攻め続け、負ければ敗退の危機にあうモロッコのするどい攻撃にも体をはり、懸命に守りぬいた。決勝点となった永井謙佑の得点は、ディナモ・キエフ時代のシェフチェンコを思わせる、驚異的なスピードを武器に勝利をもたらした活躍そのものだった。

 そういった勝ち方をすると快速FWだけが評価されがちだが、シェフチェンコは『僕は矢かもしれないが、その矢を引いてくれる弓はチームメイトさ』と仲間をたたえることを忘れない選手だった。

 永井も『チームは非常によい雰囲気なんで、継続してがんばっていきたいと思います』と答えた。
 快進撃はどこまで続くのか、楽しみでならない。


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