2012 年 5 月 5 日

 交通事故が目の前で起きた気分だった。併せて、スポーツに「絶対」が決してないことを痛感させられた光景でもあった。

 スペインではレアル・マドリードが4シーズンぶり32回目のリーグ制覇を果たし、辛酸を嘗め続けたチーム、ファンにとって嬉しいニュースだったに違いない。永遠のライバルでもあり、史上最強と呼ばれたバルセロナを、そのホーム“カンプ・ノウ”で下したことに喜びもさぞ、ひとしおだろう。

 レアル・マドリードが優勝を決めたその日、バルセロナのFWリオネル・メッシはまたも欧州の記録を更新した。「爆撃機」と恐れられたドイツ人ゲルト・ミュラー氏(バイエルン・ミュンヘン)が1972-73年シーズンに記録した欧州主要リーグの歴代最多得点記録67をも、68得点と更新し、残り180分間の更新チャンスがあり、記録をどこまで伸ばすかに注目したい。

 2006年ドイツW杯までW杯通算得点記録14を保持していた同氏にとっては、同大会中に15点目を記録した「フェノーメノ(超常現象)」と賞賛されたブラジルFWロナウドに抜かれる。
 1年間で67点を叩き込んだ欧州主要リーグ歴代最多得点にしても、W杯通算得点14点にしても、当時を知る人にとって記録をかたるとき、必ず「絶対」が話のあたまについたのではないだろうか。
 30年間以上もやぶられなかった2つの記録は、たとえ2人の天才に抜かれたとしても後世まで賞賛に値する。

 30年も経てば、サッカーのルールも少しずつ変わる。大きく2つを取り上たい。
 オフサイドのルールが変わったこと、そしてGKは味方からの足で戻されたバックパスを手で扱えないルールが付け加えられた。両者とも「試合のスピード感を上げ、より多くの得点を」というのがコンセプトにある。

 後者のルール変更は時間稼ぎを防ぐために採用されたのだが、サッカーを大きく変えたと言っていいだろう。つまりはGKにも高度な足技が求められることになった。GKにパス能力が加われば10人で攻めていたチームが11人で攻められる事になり、数的有利が勝利への大前提とされるサッカーの攻撃において、有利なのは言うまでもない。

 古くはオランダのアヤックス、昨今ではバルセロナを始めスペインの多くが当たり前のように行なっているが、今後はサッカー界の常識となることはほぼ間違いない。

 昨季、惜しまれながら引退したエドウィン・ファン・デル・サールという名手と呼ばれ続けたGKがいた。アヤックスで世界一になり、イタリアの名門ユヴェントスに移籍を果たすと、まずまずのパフォーマンスを披露するも、ティフォージからは愛されなかった。理由の一つとしてアヤックスで教育されたGKからの組み立てというものが、当時のイタリアには浸透しておらず、相手FWに奪われる失態を何度か犯してしまう。

 そこに、現在でも世界屈指のGKジャンルイジ・ブッフォン入団が決まるとティフォージたちは揃って『これで自殺点がなくなる』と皮肉を込めて喜んだ。その後、名伯楽アレックス・ファーガソンの指導もあり「緑の巨人」と呼ばれるほど、マンチェスターのファンに愛された。
 一つ言えるのは古典的なGKらしいプレーをしていれば、イタリア・セリエA初の外国人GKとして間違いなく大成したが、勝つための教育の差が個性を奪ったと言えるだろう。

 そのユヴェントスも今季、イタリア初のクラブ所有のスタジアムを建設し、リーグ首位を走る。試合展開もカテナチオと揶揄されるイタリアサッカーとはかけ離れた、GKからボールをつなぎ、ポゼッション重視の攻撃を披露しつづけている。

 残り3試合を残した5月2日、2位ACミランと勝ち点3差で首位を走っていたチームが、1-0リードで迎えた後半40分、ブッフォンがいつかのファンデルサールのような致命的なミスを犯し、引き分けに持ち込まれてしまう。その日勝利したミランと勝ち点1差まで迫られてしまう。今季から監督に就任し、クラブOBでもあるアントニオ・コンテがあそこまで悔しそうにする光景は年間とおして初めて目にした。

 思い返せば、ファンデルサールがユヴェントス在籍時にアヤックス仕込みのボールキープをし、ミスをしようものなら怒鳴り散らしにわざわざ中盤から戻って来たのが、他でもないコンテだったと思うと、不思議な縁を感じてしまう。

 セリエAも残り2試合。ユヴェントスは組み合わせにも恵まれ、14位と11位にいるチームと対戦し、ミランはインテルとのミラノダービーを残している。ユヴェントスが2連勝すれば優勝は間違いないが、「絶対」がないのもサッカーである。


コメント / トラックバック 1 件

  1. katsu より:

    おめでとうございます

    セリエAの記事を読ませていただいてからとしまして・・・・

    先日はBBQにてお話を聞かせていただきました
    門前仲町のかつです。

    「縁」 そうだったんですか~
    ブッフォンの右足
    周囲確認能力
    集中力の欠如
    ・・・・・・・・・・・・・・
    からのスクデット
    9年ぶり
    いろいろ各々が頭をよぎったんでしょうね。

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