五臓六腑

2012 年 5 月 2 日

 昨秋に開幕した欧州のリーグ戦は佳境を迎えている。
 海外で、もっとも多くの日本人が籍をおくドイツ1部ブンデスリーガでは、香川真司の活躍もあり一足先に今季の終焉をむかえた。2連覇を果たしたボルシア・ドルトムントの中心が、日本人選手であることに誇りすら覚えてしまう。

 シーズンが終了すると選手にとっては、切っても切れない宿命が待ち受ける。言うまでもなく「移籍」である。

 ある映画で、主人公が発した『チームにとって選手の移籍は、人間に例えるのなら臓器を売るようなものだ』という言葉が印象深くのこっている。大なり小なりプロの選手ならば、自身の向上を求めない選手はまず、皆無だろう。

 サッカー界では、スペインの白いシャツのチームか、ブラウ・グラーナと呼ばれる色のシャツに誰もが袖を通したいだろうし、野球界ではニューヨークのピンストライプのユニフォームが、まず思い浮かぶ。ステップアップを目標に移籍しても、誰もが成功を約束されているわけではないのが、スポーツの面白い側面ではないだろうか。

 いくら能力が高くとも、その身体に適合しなければその意味をなさない。移籍した選手にとっては、適合こそが光と闇を隔てる“鍵”といっても過言ではないだろう。一方で残された者たちにとっては、切って売られた優秀な臓器の代わりを探すのか、育てるのかがチーム作りの妙だという事も見逃せない。

 その点でいえば、今季序盤のドルトムントはチーム作りを失敗した、と言っていいだろう。
 昨季9シーズンぶりにリーグ制覇を果たしたチームの心臓は1年間チームを牽引し続けたMFヌリ・シャヒンであり、肺がFWルーカス・バリオスであり、香川であった。香川を欠いた後半戦、片肺を失っても、体に活気を与え続けたのはシャヒンの送り続けた、血液という名のパスだった。
 その心臓をスペインの白いシャツことレアル・マドリードに売ってしまったのが、多くの識者もかたる「前半戦の大不振」の要因だろう。

 素晴らしい能力をもった臓器もマドリードで開花しているか、と問われれば、否である。試合出場すら約束されていない立場にあるのだから、残酷さの一面をのぞかせた移籍でもあった。

 心臓を失ったドルトムントは前半戦こそ躓(つまず)いたものの、足りない部分を埋め、確認しながら後半戦を巻き返す。誰があらたなチームの心臓になったかは言うまでもないが、人間の身体そのものの様に元気を取り戻すのだから、チームを率い身体の“脳”といっていい、ユルゲン・クロップ監督の手腕を存分にみせて頂いた。

 今月中旬にもなれば、各国リーグ戦が終焉をむかえると同時に、俗に云う「ストーブリーグ」開幕でもある。
 クラブの財政を助けるために移籍を志願する者もいれば、どこのチームに移籍しても『このシャツを着るのが夢だった』と節操のないコメントを残す者もいるだろう。

 五臓六腑(ごぞうろっぷ)とはちがい、身体の伝達そのものを司る“脳”そのものを取り替えたブラウ・グラーナことFCバルセロナの来季も気になるところだが、同胞である香川が噂されているビッククラブに移籍し、活躍して欲しい願望をもつファンの一人として、シーズン終了後もサッカーを楽しめそうだ。


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