2012 年 3 月 22 日

 力強い戦術
 すぐれた人心掌握術
 負けないチーム作り
 退団時にチームメイトに泣かれるほどに愛される監督は、ひろい世界を見渡しても多くはない。

 ドン!

 最初にこの監督を知ったのは、各国のメディアが集まる欧州チャンピオンズリーグ(CL)の記者会見場で記者からの挑発的なコメントに対し、机を叩き、周囲をだまらせたのが印象にのこっている。

 3月17日、ファブリス・ムアンバ選手がFAカップ準々決勝のトッテナム・ホットスパー戦の前半42分に、選手との接触のない場面で突然ピッチに倒れた。心肺停止状態におちいるほど切迫した状態が続いたが、20日夜には容体を尋ねられて返答できる状態にまで回復した、と報道された。

 付き添いのクラブドクターが『実質的に78分間は死んでいた』と話すほど、生死の境を彷徨った選手がなぜ、一命を取りとめたのか。ムアンバの驚異的な生命力はもちろんだが、とある監督の提言によるところが大きい。

 ジョゼ・モウリーニョである。

 49歳にして別チームで2回のCL制覇を成し遂げ、現在はスペインのレアル・マドリーを率い、史上最強と謳(うた)われるバルセロナを相手にリーグ首位を確保し、CLも互いに勝ち進めばFINALでの対戦が実現しそうだ。

 このポルトガル人監督は2006年イングランドプレミアリーグのチェルシーを率いていた10月にGKペトル・チェフが相手選手と激しく接触し、頭蓋骨陥没骨折を負ってしまう。生命の危機すら危ぶまれる状況で、モウリーニョはその手際の悪さに憤慨した。
 チェフの病院への搬送が遅れたことを激しく非難し、チェルシーも公式でプレミアリーグとFA(イングランドサッカー協会)に抗議した。FAは2007年から メディカルのルールを変更。スタジアムに救急車を待機させておくこと、クラブはドクターを毎試合連れてくることなどが新たに取り決められることとなった。

 メディアをコケにしたような受け答えからか、結果重視の悪い人間像だけが風評としてあるが、車椅子に乗ったファンに妻から贈られた十字架のネックレスを『あなたにも幸運を』と、躊躇(ちゅうちょ)なくプレゼントしてしまう人柄なのはあまり知られていない事実の一つでもある。
 ひと一倍選手おもいの指揮官が起こした抗議は6年後に実をむすんだのである。

 今回、サッカーの母国から届いた出来事を日本サッカー協会はどう見たか。対岸の火事で済ますのか、否か、今後の動向を注意深く見続けたい。
 ルールは変更もできれば、付け足すことだって出来る。いつの世も善し悪しを決めるのは、決める側の懐(ふところ)によるところが大きい。分かりきった事だが、人の命はお金ではけっして買えない代物である。


 その後、チェフは世界屈指のGKとしてチェルシーで活躍を続ける一方、チェコ代表主将として来日もし、横浜でビックセーブを連発した。
 ファブリス・ムアンバの今後を温かく見守りたい。


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