寂れ

2012 年 3 月 1 日

 小さなスタジアムだった。
 個人的に記憶に残るゴールを残したその場所は、あまりに小さくそして古かった。

 昼間からワインを飲んだためか、急激に眠くなっていた。帰国を明日に控え、おみやげを買うだろうと近くの大型ショッピングモールに連れて行って貰った。
 『何処か行きたい場所はある?』という問いに、即答した。そういえば昨日から言っていたね、という顔をし、はにかみながら友人は車を駐車場から出した。

 『着いたよ』

 どうやら、その道中で寝ていたらしい。予想以上の小ささと古さに驚いた。まわりに大きな建物もない為か、辛うじて大きく見える。

 スタジアムの門は開いていて、警備員はいなかった。スタンド席までは門から30mほどだった。「注意されれば出ればいいや」位に考え、歩を進めた。スタンド席は“元”セリエAと呼ぶのにも申し訳ない位に寂れていた。本などでしか見たことがなかったコンクリートの席が存在し、透明のアクリル製の防御柵はわれていた。

 ピッチでは芝の状態をチェックし続ける2,3人のスタッフさんがいただけだった。
 スタジアム全体を眺めているとピッチへと通じる扉が開いていた。決して褒められる行為ではないがピッチに立てる、またとない好機を逃させなかった。厳密にいえば逃せなかった。
 重ねて言うが決して褒められる行為ではない。
 天然芝のもつ香りは何処の国でも変わらない。

 降り立ったその場所はブレッシャのホームスタジアムで、イタリアの至宝ロベルト・バッジョの選手生活の最後を過ごしたスタジアムで、名手ファン・デル・サールをトラップだけで躱したゴールが生まれた場所だ。

 現在最高峰の一人に数えられるピルロも共にプレーしており、世に『冷凍保存したい』と言わしめる程のバルセロナを創り上げた指揮官ペップ・グアルディオラも現役最後の一時をバッジョとのプレーを切望し移籍したクラブがブレッシャである。お世辞にも綺麗とも言えないスタンド席が拡がる。

 イタリア人の友人は『ここでユベントスもミランもインテルだって試合をしたんだよ。ユベントスは好きだけどブレッシャが強かったら、どっちを好きになるか分からないよ』と笑ってみせた。
 ブレッシャは現在セリエBにいて現在8位だ。
 偉大なレジェンド達に恥じない場所に留まっていて欲しい。

 その日、もう一つイタリアに好きなチームが出来たのは言うまでもない。


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