悲劇

2012 年 2 月 27 日

 イタリア人にとっても今年の寒波は記録的なものだったらしく、学校では雪だるまコンテストなどが行われていたそうだ。
 ミラノからトリノに向かう時に見た車窓は銀世界だった。
 1週間もしない内に雪はすっかり溶け、雪に覆われていた風景は田園に変わっていた。

 トリノからミラノに帰って来る電車で居合わせたお爺さんと孫は、会話からサン・シーロで行われる首位決戦を楽しみにしていた。
 孫は明日のスタメンを予想している。隣にいる外国人に不思議そうな顔で「ユベンティーノ?」と聞いてくる。尋ねられた理由は先日オフィシャルショップで購入した首から下げるストラップをデジタルカメラに取り付けていたからで、コートのポケットからストラップが垂れ下がっていたからだった。

 いつからファンで、誰が好きか、を聞いてくる。
 欧州の悲劇といっていいベルギーで起きた「ヘイゼルの悲劇」の体験者と聞き、読んでいた本を閉じ、話をつい聞き入ってしまった。

 首位決戦を前にACミランのホームであるサン・シーロは無料で配られた新聞のゴミで溢れかえっていて、ダフ屋がチケットを持ってなさそうなファンをみつけては声を掛けている。
 露店が軒を連ね、8万人を収容できるスタジアムだけあって人の流れだけでも圧倒される。



 首位決戦はティフォージが盛大に盛り上げる。
 ユベントスDFの決定的なミスからホームのミランが先制すると、サン・シーロの威圧感からか、チームが“らしく”ないプレーを繰り返す。ベテランを除き、サン・シーロでミランと対戦するのが初めての選手が多いチーム特有の若さが出たのか、プレーに落ち着きがない。

 正規の数字ではないが、仮に1万人分のチケットがアウェイチームに割り当てられたとする。関係者、外国人ツアー客で1万人。残った約6万人がつまりはミラニスタが一斉に指笛でユベントスを威嚇する。そんな中でプレーを強いられるわけだ。
 無論、気持ちの良いものではなかったし、恐怖さえ覚えたのは事実である。

 基準が定まらないジャッジに徐々に試合が荒れ出す。審判の目の届かない場所で小競り合いが繰り返され、正当に近いスライディングにも大袈裟にのたうち回りカードを要求する。ある種では「賢い」のかも知れないが個人的には好ましくない。

 2つの正当な得点もそういう最中に起きたものだ。

 後半に入り、前線の選手を次々と代えたユベントスが試合を振り出しに戻すことに成功する。その後退場者を出したが逃げ切り、敵地で価値ある勝ち点1を手にする。
 両チームにとって誤審はベルギーで起きた事故と比べれば悲劇と呼ぶには大げさだが、優勝が決まる頃には小さくない悲劇になっているだろう。
 これから欧州の戦いを控えた過密日程のミラン、国内だけの試合に集中でき、未だ無敗を続けるユベントスが6年ぶりのスクデットに大きく前進したのは言うまでもない。

 気になるのは、この試合を楽しみにトリノから駆け付けた孫が1-1という試合をどう見たか、である。
 審判が主役になってしまった試合を全世界の誰が素晴らしいと思うだろうか、に尽きる。


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