三角形

2012 年 1 月 11 日

 アスリートの成長。
 その成長過程の1つに「人の注目」が必ずある。

 現在、解説者として活躍される元プロ野球選手、桑田真澄氏の父親との思い出は大変面白く、そして興味深い。
 父親に生まれて初めてグローブを買って貰い、翌日キャッチボールを楽しみに学校から戻ると父親によってグローブは切りきざまれ中綿が抜かれていた。
 父親に問い詰めると『使うトコロは残してある』と答えたそうだ。

 野球自体をしたことはなくともキャッチボールをたしなんだ経験は多くの方がお持ちだろう。野球のグローブにはポケットと呼ばれる部分があり、そこでボールを捕球すれば落球が少ないのは勿論だが、「パーンッ」といったいい音が出る。そして何より指が痛くない。
 のちの大投手となる桑田真澄氏にとって最初のグローブはポケット周辺だけ中綿が残った歪なグローブだったという事になる。ここに父親の言いたい事が詰まっていて、他は抜かれている為、他の部分で捕球すると指が痛くなる。まわりくどい説明より一番伝わるトレーニング法と言い換えることが出来る。

 数多くの逸話の中で一番興味深いのが試合の日の「人集め」にある。父親は練習試合だろうと公式戦だろうと父兄は勿論、親戚、友人、友人の友人まで集めたそうだ。
 大勢の人に囲まれ、試合毎に緊張状態を作る。
 試合をすればエラーや三振もあるし、ナイスプレーだって当然出る。
 前者は恥ずかしく、後者は喜びを与えてくれる。子供心を巧みに汲み取ったもので関心させられる。
 子供ながらに恥ずかしい思いをしたくないから練習し、喜ばれたいから練習する。

 その環境で育った桑田真澄氏は甲子園を騒然とさせ、プロの世界に行っても数多くの功績を残し、そして感動を多くのファンに与えてくれた。

 幼少期に多くの人に見られる事によって生まれる感情の起伏、積み重ねた努力の結晶が桑田真澄という選手を作ったのならば、スポーツに限らず、何の世界でも頂点を目指す者にとって大切なのは「人に見られる」という事に尽きるのでは。

 第90回全国高校サッカー選手権大会が先日終わり、会場で、テレビで、と数多くの試合を観戦させて貰ったのだが、毎年のように注目される試合の会場選びに疑問符が残る。

 前大会、青森山田(青森)の柴崎岳(現 鹿島)に多くの注目が集まっていた。3回戦で優勝した滝川第二(兵庫)に敗れてしまうのだが、その試合が行われたのは東京西が丘サッカー場だった。
 収容人員7,258人のこのスタジアムは試合前から長蛇の列が出来ており、試合が始まる頃には立ち見客で通路も埋まっていた。
 今大会でも市原臨海競技場で行われた好カード清商と市船の試合、スタンド席は早々に埋まり、芝生の傾斜がついた場所で数多くのファンが試合を見守った。
 試合が終わり、その場所まで行ってみたがスタンド席とは全く違う光景が拡がっていた。得点しか盛り上がれないその場所で観たファンは有意義な時間を送れたのだろうか。
 前売り券1,300円、当日券1,500円のチケット、確かに安価だが早い者勝ちのこのシステムでは如何なものか。

 もし、好カードを多くの人員を収容出来るスタジアムを選んでいたらファンも真冬の芝生の上に座っての観戦をする事もなければ、立ち見などもせずに試合を楽しめたのではないか。
 何より協会も興行的に成功と呼べるものに必ずなった筈だ。

 無論、簡単な事ではないが試みる価値は絶対ある。
 贔屓するつもりはないが、好カード、注目選手だからこそ人が集まるのではないか。

 90回の歴史の積み重ねが名勝負を、名選手を産み出したのならば、協会、選手、観客のトライアングルが満足出来る環境作りにも着手がそろそろ必要なのではないか。


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