功績

2012 年 1 月 4 日

 何を想っていたのだろう。
 1月の冷たい風が吹きすさむ中、何を考えていたのだろう。
 主力を欠き、跳ね返される攻撃を前に最後まで動かなかった。
 今大会を最後に高校サッカー界から去る、青いコートを着た名伯楽は微動だにしなかった。


 千葉県市原臨海競技場では今大会屈指の好カード、名門対決が行われた。市立船橋(千葉)と清水商(静岡)の試合は3-0で市立船橋が完勝した。
 市船の試合に行くと元は何色だったか分からない色のあせた水色の旗が掲げられている。

 「和以征技」

 市船から巣立ちプロになったOB、そのOBがベテランの領域に達しても大切にするこの言葉が意味するものは「チームワークがあって初めて技術を生かせる」というもの。
 過去を振り返って市船の勝ち方を思い返しても「個」に頼った戦い方は記憶にない。際立った「個」がいた時期は確かにあったものの、「個」に頼りきった戦い方はせず、数々の栄冠を獲得してきた。
 裏を返せばチームが「個」の人間管理がしっかり出来ていた、という事も言えるのではないか。
 今年の市船も守備において誰一人サボることなく、高い構成力で試合を終始圧倒した。特筆すべきはDF陣で1対1の勝負もほとんど負けなることはなく、きわどいボールもことごとく跳ね返していた。

 高校サッカーファンにとって馴染み深い「清商」は時代の流れに逆らえず、学校統合により今大会をもって消滅する。
 言わずと知れた名門の最後は悲運と呼べるものだった。県大会、FW風間宏矢と共に抜群の存在感があったMF青木翼の大会直前に骨折、今大会中で怪我人続出といった中での市船戦はいささか酷だった。
 大滝雅良監督も『主力の30%を削がれ、戦術を徹底できなかった』と自分たちの試合が出来なかったと語る。

 力関係とは別に誰もが「有終の美」を望んでいたのではないか。
 選手権3回、総体4回、高円宮杯全日本ユース5回と12回の全国タイトルをもたらし、Jリーガー輩出は70人を超え、日本代表の一時代を築いた選手もいる。
 厳しい事で知られる大滝監督は過去に総体期間中、ワイシャツを出して歩いている当時のチーム中心選手に対し、それを理由に試合に出さなかった。
 黄金世代の中心だった小野伸二が五輪予選中に卑劣なタックルを受け、選手生命すら危ぶまれた時期に恩師に相談をした時『お前が試合中にヘラヘラしてるからだよ!』と突き返した。
 数ある逸話の中から抜粋したものだが「サッカーよりも大事なものがある」と常々語るこの監督が日本サッカー界に残した功績は計り知れない。
 サッカーを通じて大人になることを求め、人間性を重んじた。

 昨今、全国常連校の多くは人工芝のグラウンドが完備されている。
 ただでさえ勝ち抜けるのが苦難の静岡県代表。昔ながらの土のグラウンド、強豪ユース、一カ所に才能が集まりにくい静岡という土壌。その中で高校サッカー界の名将の一人に数えられる大滝雅良監督、最後の年に出場する選手権は本当の意味で価値があるのではないか。

 あまりにも残酷な形で今大会も、高体連からも姿を消す静岡市立清水商業高等学校に大きな拍手を贈りたい。


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