時折だが、2006年ドイツW杯の日本代表のグループリーグ3試合を観る。
この大会を最後に引退した中田英寿氏の走行距離も然ることながら、何より試合への執念を感じ、感じる執念こそが大なり小なり、一選手が試合に対する真摯な姿勢だと私は考えている。
特にクロアチア戦は勝てた印象が強い。
12月11日クラブワールドカップ準々決勝、北中米代表CFモンテレイを1-1で90分を終え、延長戦でも勝敗は決せず、PK戦までもつれた死闘は4-3で柏レイソルが制し準決勝へと駒を進めた。
試合序盤を観ていて、柏の勝利を確信した者がいるとしたら相当な楽観主義者だろう。サイドバックとセンターバックのギャップを巧みに抜けだすモンテレイ、特にデルガドを捕まえられずにいる。柏ファンでなくとも何度となく肝を冷やす場面の連続に諦めにも似た感情を抱いてしまう。
仮に、この日の相手がバルサなら「仕方ない」といった類の言葉が似合う。しかし、異次元とも言い難い相手に確かな差を見せつけられる事実はJリーグと世界との差は縮まっているようで、まだ遠い、と考えていた。
前半24分、モンテレイのエースFWスアソが足をひねる。この事がこの試合の分岐点に映った。確かなフィジカルもあり、ボールが収まり、ボールのない状況で相手の背後を巧みに奪ってしまうスアソが足を負傷した後はモンテレイ全体が精彩を欠いた。出発点をなくしたモンテレイは必然的に柏に流れを与えた、と言っていいだろう。
この時点で、三角形の尖った先端が欠けてしまったようなチームに相手の守備の壁にほころびを与え、打ち破る力はなかったのかも知れない。
後半に入り、レアンドロ・ドミンゲスの見事なボレーシュートで柏が先制するが、直後にデルガドの抜け出しから絶妙のポジショニングで構えていたスアソが難なく決め、試合を振り出しに戻す。試合開始からみられたデルガドの飛び出しのハイライトを何度もみているかのような失点シーンであった。
期せずして、柏の逞しさがみられたのはここからだった。
中2日で迎えた疲労感を時折だが滲ませる、攻撃を担う選手までもが最終ラインまで戻る場面もあり、全員が労を惜しまず120分間を走り回った。
開幕戦で左膝を傷めた酒井宏樹の痛々しいテーピングに言葉が詰まる。その酒井が試合後に『世界にレイソルが凄いチームだと見せたい』と語っている。世界的な知名度もなく弱者の側にいる柏にとって、勝負の世界という舞台で「凄い」を見せるには無論、勝利しかない。
勝利に対し、労を惜しまなかった執念が菅野孝憲にPKストップを導いたのではないか。そう、考えさせられる場面で、同時にチームスポーツの美しさなのだと私は考えている。
12月14日、南米王者サントスFCとファイナリストの座を懸け、相対する。
分かり切った話だが、簡単な相手ではない。
しかし、この試合で柏がみせた、打たれ強さにも似た試合への順応性を見ているとつい期待をしてしまう。
2006年ドイツW杯クロアチア戦、この試合は0-0のスコアレスドローで終えるわけだが、現在行われているクラブW杯には延長戦があり、PK戦もある。
日本の、柏の飛躍を最後まで私は信じている。