気は心

2011 年 10 月 13 日

 一昔前のJのチームへの愛情は何処か真似事だった気がする。

 何処か欧州のそれを真似をし、一生懸命に応援している様に思えた。拍手を忘れ、チアホーンを吹いたり、黄色い声援が飛び交い、応援することによって自己が満たされ、チームも満たされる現象があった気がする。
 時は流れ、現在は地域のチームを本気で愛し、商店街にユニフォームを飾ったり、サッカーを通じ地域活性化を目指すチームがあったり、チームの応援歌があったり、日本独自の応援が各地で見られスタンドを見渡した時、時折だが感慨深い気持ちにさせられる。
 代表ばかりに人気が集まっていた悪しき習慣も蔓延る中、徐々に、ゆっくりだが地域に移っている現実はこの上ない喜びである。

 10月11日、長居陸上競技場でタジキスタン代表を8-0というスコアで圧勝した。試合前から敵将は日本を褒めちぎっていたが、内容、結果ともレベルの差が露骨に現れた試合であった。攻めて来ない、奪いに来ない相手に個人的に二桁得点を期待していた。
 本田圭佑不在も何処吹く風、といった内容に強化、連携、新戦力発掘も霞んでしまう公式戦であり、何をやっても成功してしまう試合内容の場合、試合の潤滑油になり、功労者と褒め称えなければならない選手を見落としてしまう場合が多い。
 この日の中村憲剛の存在なくして内容、結果も充実した試合になっただろうか。
 この日の中村は本田欠場以来、迷走していたザッケローニ監督が探していたトップ下だったのではないか。ピッチ狭しと縦横無尽に走り回り、チームメイトの為の動き、特筆すべきは不調の真っ只中の香川真司を生かすスペース作りには相手チームも修正不能に落とし入れた。本田と異なり、新たなオプションを手にした試合ではなかっただろうか。
 本田にはない長所を発揮し、90分間捕まえる事も、触れる事すら出来ない存在であり、タジキスタンにとって終始、脅威になっていた。香川の1点目のシーンに至っては『分かっていても止められない』といったテンポの良い攻撃であった、9人が居並ぶゴール前を長友佑都、中村、香川のたった3人で崩した得点は個人的にこの試合の最大の収穫であり、ハイライトであった。
 ハーフナー・マイクにクロスボールを送れば何点入ったか分からない相手守備陣を察してか後半早々に李忠成を投入するが、後半挙げた得点からは前半に香川の挙げた1点目には遠く及ばない得点であったのは言うまでもないだろう。
 この日のハーフナーの出来にザッケローニ監督は一定の満足を示した筈だが、逆に李に対しての評価が下がったのではないか。故障明けからJで結果を出し始めた前田遼一、FW争いの激化は避けられないだろう。
 李が生き残るにはもっとワンタッチ目で前を向いて欲しい。この日もバイタルエリアで流れて良い場所で受けるシーンが多々あったが相手を背負ってない状況にも関わらず、前を向けなければ今後は生き残れないだろう。ハーフナー、前田にないスピードがあるのだから長所を生かす術を私は期待している。

 この日、使用した長居陸上競技場をホームスタジアムとするセレッソ大阪のジャージを身に纏うファンを多く目にした。そこには必ず誇りがあり、欧州2年目を迎え、調子を落としている“元”エースの激励もあったのではないか。

 昨年、W杯が行われた南アフリカでデンマーク戦を明日に控え、空き時間にW杯のチケットセンターも入っている大型のショッピングモールに買い物をしに行った時に川崎フロンターレのジャージを身に纏う日本人に出会った。
 『川崎フロンターレ、好きなんですか?』という見ず知らずの日本人の突然の問いに『勿論!』と笑顔で答えてくれたTさんとカフェで1時間程、雑談をした。
 雑談の終盤だったろうかTさんが『僕、中村憲剛と同じ高校なんですよね。明日が終わったら日本に帰っちゃうんですけど、明日の試合で憲剛が出場してくれたら最高ですね』と笑っていたのを思い出す。デンマーク戦では出場が果たせなかったものの決勝トーナメント1回戦パラグアイ戦で出場を果たす事となる。
 W杯後、『何故、あそこで打たなかったんだろう』と懺悔にも近い後悔を口にした中村がこの日、躍動した事実は個人的にたまらなく嬉しかった。
 日本代表を、後輩を応援をしに決して安くはないお金を使い、遠い南アフリカまで応援に駆け付けたTさんは代表のジャージではなく、寒かった南アフリカで快適な防寒着でもなく、高価な上着でもなかった。愛するクラブのジャージで南アフリカの地を踏んだ。脈々と着々とクラブを愛するファンが増えている事を感じたタジキスタン戦であった。


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