空洞

2011 年 8 月 2 日

 日本の若き才能達が続々と海外へ。

 ドイツの名門バイエルンに移籍した宇佐美貴史は親善試合ではあるが欧州王者バルセロナを相手に決定的なパスを何度も最前線に配給する活躍をみせ、初先発初出場ながらバイエルンの攻撃に確かなアクセントを加えた。
 香川真司の相棒と称賛される乾貴士も噂されていたドイツに旅立った。そして今後も若き才能達の海外移籍は続いていく事に思う。
 そして同時期、日本代表候補も発表され新しい血が加わろうとしている。
 個人的に好感の持てる選出であった。

 若い選手にとって日本代表選出は確かな自信を与えるのは間違いない。時折だが貫禄を感じさせるプレーが見る事も出来る。しかし一方で自分を見失い、成長が止まってしまう選手もしばしばみられるがプレーや人間性が高飛車になってしまっては選手としても人間としても右肩上がりの成長曲線は描けない。
 そして、日本代表に選ばれた事実はチームメイトにも必ず伝染し、奮起を促す。同世代の選手達は『あいつが選ばれるんだったら俺だって・・』と当然考えるだろう。それは当然の感情であり、向上心がある選手ならば第三者からしても抱いて欲しい感情に思う。
 ザッケローニ監督にしか解り得ない選出だが実に好意的に映る。

 日本の若き才能達が注目され、期待を裏切らない活躍をみせているのなら海外のスカウト陣は黙ってはいない。スカウトマンの仕事は若い才能を見出し、海外に売り込み、売り出した選手が才能を開花させればスカウトマンとしての確かな功績であり、よって名を挙げる事が出来る。
 日本では少し偏見の目で見られる傾向が残るが、移籍はスカウトマンの仕事であり、食いぶちである事を忘れてはならない。

 旅立つ嬉しいニュースの裏側で嘆かれているのがJリーグの「空洞化」である。

 確かな才能があり、その才能を評価され移籍を果たす訳だが才能の流出に自リーグのレベル低下が叫ばれている。
 私には疑問符である。
 才能の流出は確かにチームの弱体化を招くかも知れないが、1人の選手が抜けてチーム力が低下する様ではチーム作りに問題がある様に思う。香川がドイツに渡った昨シーズン、所属していたセレッソ大阪は何位でシーズンを終えたか。
 結果は3位である。J1復帰1年での3位である。ACL(アジアチャンピオンズリーグ)出場の切符を見事勝ち取り、今季のACLという舞台で日本勢で唯一残っている揺るがない事実がある。
 大切なのは選手がチームを去っても、チームとして揺るがない対応力であり、チーム作りにあると思う。
 
 海外に出た選手が毎試合出場し結果を残す者もいれば、出場機会にも恵まれずベンチにすら入れない選手も勿論出てくる。出場出来ない選手には残酷だが、それこそが勝負の世界、プロという世界の常である。
 選手として海外に行けば質の高いサッカーが体感出来ると共に日本では考えられない環境が待っている。殺伐としたアウェイでの試合や町を二分するダービーマッチも待っている。相手チームのシャツの色をあしらったシューズやジャケットを身に付けようものなら裏切り行為に映る。
 チームの資金力によっては芝が剥げ、穴だらけの練習場で練習を行ったり、練習から選手同士で削り合い、殴り合いに発展する場合もある。日本では考えられない環境があり、その中でサッカーをしてサッカー人として伸びない訳がない。
 今年1月、アジアカップ開幕を控えた練習の際、オランダから戻って来たDF吉田麻也は『日本代表の居心地はどうですか?』という質問に対し『やりやすいですよ。何でも揃ってますし(笑)』と答えている。吉田の笑顔の裏側には日本代表の環境が如何に恵まれているか、容易に想像できる。

 人間としても新たな環境で言語も違ければ価値観も異なる場所で仕事を、生活をしなければならない。人間としての奥行きは間違いなく出てくるし、その経験は財産であり、後に続く者達にも生かされる。

 空洞化を作るも壊すもファンの力によるところは大きい。しかし、生まれたファンの力を生かすも殺すも協会のアイデアを待たなければならない現実がある。サッカーに興味を抱かない方から見れば、日本代表だけが強ければサッカー自体の人気はある様に見える。
 しかし、現実は日増しにJリーグの観客数は少しずつ確実に減少している。

 代表にだけ特化した強豪国など存在しない。
 何の世界でも上っ面の人気は空洞を生む。では、如何にして空洞化をなくすか、この問題を協会には熱意を持って取り組んで貰いたい。

 才能の流出が人気の流出であってはならない。


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