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集約

2017 年 9 月 7 日

 日本代表はオーストラリア代表に2018年ロシアW杯(ワールドカップ)アジア最終予選第9節まで、0勝5分2敗と勝利を収めたことはなかった。仮に負けても引き分けても、6大会連続出場が途切れるわけではなかった。

 ところが試合は2-0の完勝劇。日本代表は初めてオーストラリアから勝利し、W杯出場を決めたのは先月の31日のことである。

 オーストラリアは従来のフィジカルを生かした“放り込み”ではなく、丁寧にショートパスを使い攻撃を組み立てるチームに変貌を遂げていた。これは今年6月にロシアで開催されていたコンフェデレーションズカップ2017でもみられた。

 彼らはアジア王者として世界王者と南米王者、アフリカ王者と対戦し2分1敗でグループステージ敗退。大会を去った。しかし、彼らの貫いた戦い方はどのチームも窮地に陥らせた。

 特筆すべきは世界王者との初戦だろう。シーソーゲームの末に3-2でドイツが逃げ切ったが、アジア王者はショートパスと、ときにフィジカルを生かしゴール前にクロスを送り込み、世界王者を最後まで苦しめた印象が濃い。

 オーストラリアは2014年ブラジルW杯のグループステージではオランダ、チリ、スペインと同居する「死の組」に入り0勝3敗、得失点差-6で大会を去った。そのときに感じたのではないか。

 このままでは世界で勝てない、と。

 日本も同大会で1分2敗、得失点差-4で大会を去ったがオーストラリアが感じたほどの、圧倒的な個、戦術の差は感じなかったはずだ。この敗戦を機にオーストラリアは、大幅な新陳代謝をはかり、戦術もショートパスに切り替えている。

 実際、日本戦でも愚直なまでにショートパスにこだわったのも生まれ変わりつつあるチームのそれである。日本もまた代名詞のような選手の起用はせずに、若手と調子の良い選手を起用し、システムも4-1-4-1を採用。

 ベスト16に進出した南アフリカW杯で成功を収めたシステムで、戦い方も似通っていた。日本時間6日にアウェイで行われた最終節サウジアラビア戦では、“旧”メンバーを使い、気温32℃湿度78%の高温多湿の環境下で0-1の敗戦。有終の美を飾れなかった。

 では、日本に何が足りなかったか。

 試合後、DF吉田麻也は「これから大切なのは自分たちのチームでしっかり試合に出ること」とコメント。勝利したオーストラリア戦、敗戦に終わったサウジアラビア戦。2試合の要因はこの言葉に集約されているのではないだろうか。

 日本代表は来月6日、9日に強化試合が予定されている。W杯を見据え、どのようなメンバー構成を組むか。旧態依然としたものになるか、新陳代謝を促すものになるか。どの世界でも結果を残した者が評価されることが常である。

 無論、後者に期待したい。


歳月

2017 年 6 月 11 日

 あれから20年。

 日本サッカー界にとって初のW杯(ワールドカップ)出場を決めた「ジョホールバルの歓喜」から20年の歳月が経った。「歓喜」を記念し、7日に東京スタジアムで開催された国際親善試合シリア戦のユニフォームは、当時を思い起こさせる“炎”を身にまとった。

 だが13日に開催されるW杯最終予選イラク戦を見据えた試合は1-1に終える。48分に平凡なクロスから失点を喫し、58分にMF今野泰幸の得点によって同点には追いつく。

 後半から投入されたMF本田圭佑、MF乾貴士を起点に好機を連発するが、試合を決める勝ち越し点を奪えず試合は終了を迎えた。試合終盤、幾度も日本代表に流れを引き寄せながら横パスやバックパスで相手に“一息”いれる時間作らせてしまったのは、今後の課題と言っていいはずだ。

 では、20年前の日本代表はどうだったか。

 当時の中心選手だった中田英寿氏は、若干20歳ながら、誰よりも勝利に貪欲だったし、その熱を年上の選手たちに物怖じせず伝えつづけた。その後もそのスタンスを貫き現役生活を終えた。

 当時の日本代表にとって中東はまだまだ手強い相手だった。勝ったとしても辛勝の印象が濃い。ジョホールバルでの3-2の激闘の相手も中東の雄、イランだった。

 あれから20年。現在の日本はアジア全域が恐れる存在になった。日本代表も、選手も、日本サッカー界全体が進化したのは紛れもない事実である。

 選手のレベルは信じがたいほど向上した。欧州5大リーグ(英、伊、西、独、仏)に日本人選手たちが在籍しているのは確たる証拠だろう。だからこそ、ホームでのシリア戦は勝たなければならなかった。アジアで恐れられる日本だからこそ、強さをもって威厳を示したい。

 この日先発出場したDF昌子源は試合前、昨年末に開催されたクラブW杯決勝戦を振り返っている。欧州王者を相手に2-2で延長戦に突入し、サッカーファンのみならず日本人の多くが夢を見た試合だ。だが昌子は「レアル・マドリーは本気じゃなかった」と振り返っている。

 「欧州チャンピオンズリーグ決勝戦(日本時間6月4日開催)のレアルは全然違った」と語り「俺らがやったのはレアルじゃなかった」とまで話している。

 クラブチームと代表チームを比べるつもりは毛頭ない。だが、レアル・マドリーの根幹にはいつの世も、どんな相手にも勝利だけを求める姿勢がある。そこに“白い巨人”と恐れられる由縁があるはずだ。

 日本代表はおそらく6大会連続でW杯出場を決めるだろう。しかし、どんな相手にもホームでしっかり勝ち切る姿勢がなければ、更なる進化は望めるのだろうか。

 あれから20年。ジョホールバルにあった炎が妙に懐かしくなる、雨降るシリア戦ではなかっただろうか。


一入

2016 年 11 月 7 日

 スペインメディアから「(MFアンドレス)イニエスタ2世」とまで言わしめた才能は、その能力を遺憾なく発揮している。FC東京のイニエスタ2世ことMF久保建英という逸材を目当てに、およそ7653人もの観客と100を超えるメディアが5日、スタジアムに詰めかけた。

 バルセロナのスカウトに見出され2011年スペインに渡り、世界有数のカンテラ(下部組織)で2015年まで主力として活躍。チームの不祥事によって日本に戻ってきた。

 その才能は疑いようもなくU-16日本代表にも選出され、来年開催されるU-17W杯出場を懸け今年9月にAFC U-16選手権に出場し、大会得点ランキング2位となる4得点を記録。2大会ぶりのW杯出場権獲得に貢献している。

 久保は5日の試合でJリーグ史上最年少出場記録を更新。計り知れない能力を秘めた日本サッカーの才能は今後どのような足跡を残すか、楽しみにしたい。

 U-16世代に続き、U-19日本代表も来年開催されるU-20W杯出場権を懸けたAFC U-19 選手権を初制覇し、5大会ぶりに切符を掴んだ。U-16、U-19両世代は近年W杯を逃し続け、日本サッカーの育成を危惧された世代だっただけに日本サッカー関係者を含め、ファンの感慨も一入(ひとしお)だろう。

 今年8月に開催されたリオデジャネイロ五輪では、惜しくも決勝トーナメント行きを逃したU-23日本代表も今年1月にアジア王者に輝いている。それらのことを踏まえ、U-19日本代表を率いる内山篤監督は「日本の育成プログラムは順調」と胸を張る。

 たしかに順調この上ない。また来年U-20W杯を戦う彼らは、2020年東京五輪を戦う世代だけに世界を肌で感じる絶交の機会になる。

 ではA代表はどうだろうか。

 ヴァヒド・ハリルホジッチが2015年3月に日本代表監督に就任すると、縦に速く、雪崩を打つように相手ゴールに迫る日本の姿がそこにあった。だが、最近では鳴りを潜めるようになった。

 実際、就任から3試合目の2015年6月のイラク戦では4−0で完勝。だが1年4ヶ月後の先月、同じ相手に後半アディショナルタイムに2−1で勝利している。劇的勝利とは聞こえは良いが、いかがなものだろうか。

 今月、2018年ロシアW杯の最終予選の山場となるサウジアラビア戦を迎える。昨今ふるわなかった中東の雄を復活させ、指揮するのは元オランダ代表監督のベルト・ファン・マルヴァイク氏だ。2010年南アフリカW杯では準優勝に導いている。

 サウジアラビアのように、世界有数の名将を招聘すれば日本の進化は約束されるだろうか。

 もし、U-19世代を初のアジア王者に導いた内山監督の言う「日本の育成プログラムが順調」ならば、いつまでもA代表だけ外国人監督に任せて良いのだろうか。果たして日本の若い才能たちは、従来通り、外国人監督の元で輝けるのだろうか。


奏功

2016 年 10 月 15 日

 イビチャ・オシム氏が病魔によって倒れると、岡田武史氏が日本代表監督を引き継いだのは2007年。2009年には南アフリカW杯出場権を獲得する。

 しかしW杯イヤーになってもチームの方向性は定まらず、苦しい戦いを余儀なくされる。主将をDF中澤佑二からMF長谷部誠に任せる“テコ入れ”を施したのは、本番直前のテストマッチでのことである。

 イングランド、コートジボワールといった強豪相手に歯が立たず、W杯に突入する。そこから岡田氏が導き出した答えがMF本田圭介をFWに据える奇策だった。

 この“ワントップ本田”は見事フィットし、グループリーグを2勝1敗でベスト16に進出。パラグアイにPK戦の末に惜敗したのは今から6年も昔の話である。

 FW岡崎慎司の負傷により、ワントップ本田を2018年ロシアW杯アジア最終予選、グループリーグ最大のライバルであるオーストラリア相手にヴァヒド・ハリルホジッチ監督は用いた。

 この奇策ともいえる戦術が奏功する。

 長谷部、本田を経由しMF原口元気の3試合連続得点でアウェイの日本が、理想的な形で前半5分に先制点を挙げる。その後は現アジア王者オーストラリアに攻め込まれるも、無失点で前半を乗り切る。

 後半7分に先制点を挙げた殊勲の原口がPKを献上し、同点弾を許すがその後は得点を与えずオーストラリアから勝ち点「1」を日本に持ち帰ることに成功する。

 南アフリカでの“勝利”から6年を経過した現在でも“奇策”に頼らなければならないことに、警鐘を鳴らしたい。

 イングランドではFWウェイン・ルーニーは現地時間8日、ホームにマルタを迎えた一戦でMFとして先発フル出場を果たし2-0の勝利に貢献したものの、ファンからはパフォーマンスに不服としブーイングを浴びせられている。

 現地時間11日のスロベニア戦では先発から外れ、後半終盤のみ出場するが勝利に貢献できず0-0に終えている。フィールドプレイヤーとしては同国代表史上最多出場となる117試合を誇り、同代表の歴代最多得点を記録している大エースだが、現在はポジションを約束されていない。

 所属するマンチェスター・ユナイテッドでも試合出場から遠ざかっており、来夏には移籍、とまで話は発展している。奇しくも本田も所属するミランでは出場機会に恵まれていない。

 国こそ違うが、ルーニーも本田も長らく代表チームを支えた選手だ。イングランドはW杯出場へ視界良好の首位だが、日本は次戦のサウジアラビア戦の結果次第では黄信号が灯りそうな状況だ。

 綱渡りの最終予選は注目を集め、そのゆえに選手も精神的に強くなるはずだが、チームを作るハリルホジッチ監督にとっては試行錯誤の日々が予想される。奇策や奇襲は、何度も通用しないのが世の常だからだ。


反故

2016 年 10 月 10 日

 後半アディショナルタイム。MF山口蛍が放ったシュートがゴールネットを揺らしたその瞬間、埼玉2◯◯2スタジアム全体が歓喜に包まれた。日本は土壇場でイラクを2-1で沈めた。

 怪我にも泣かされ6試合でドイツ挑戦を終え、わずか半年でセレッソ大阪に戻って来た山口に下された世間の評価は冷たいものだった。その選手が決めた日本を救う一発は今後の展望を明るくし、自身の再評価を示すにも充分過ぎる一撃だったはずだ。

 ロシアで開催される2018年ワールドカップ出場を目指す日本代表は、UAE戦で1-2によもやの敗戦。過去のデータをひもとけば、最終予選の初戦に敗れた国がワールドカップ本大会に出場したことは過去に一度もない“負の歴史”があるようだ。

 長らく日本代表を支えるMF本田圭佑は「逆に、初戦負けて出た歴史がないということを聞かされると燃えます。本戦出場という結果で証明したい」と逆に火がついている。

 タイで行われた第2戦では0-2で勝利したものの、選手のコンディションにバラつきがあり、チームの方向性を不安視される内容だったのは誰の目にも明らかだったはずだ。それでも最終予選での初勝利はひとまず落ち着きを取り戻せたはずだ。

 攻撃パターン、得点シーンを見ても強者に必要な“連携”を感じさせなかった。これから日本代表が、負の歴史を変えられるチームになれるか否かは、コンビネーションを増やすことが急務となるはずだろう。

 それでもMF原口元気の存在は際立っている。

 イラク戦でも先制点を決め、タイ戦に続く2試合連続で得点を記録した原口の躍動は目を引いた。勝ち越しを狙ったイラク戦でも後半終了間際にも縦に仕掛け、相手を置き去りにしたドリブルは技術の成熟だけでなく精神力の強さを示した。

 原口はかつて2012年、ロンドン五輪ではメンバー選考に漏れた選手だ。その直後に行われたJリーグでは得点後に涙を流した男は2014年ドイツに渡り、今シーズンはチームの中心選手になっている。

 ドイツ有力誌、国内ナンバーワンの呼び声高い「Kicker(キッカー)」に開幕戦から2試合連続でMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選出されるなど異国の地でも評価は“うなぎのぼり”のときにある。

 ヴァヒド・ハリルホジッチ監督は日本代表監督に就任すると「試合に出ていない海外組は使わない」と公言していた。しかし、現在はそれを反故(ほご)にしつつある。

 しかし、鹿島アントラーズのMF永木亮太を初選出するなど、監督の真意は測りかねる。長らく日本代表を牽引してきたのは2008年北京五輪組だが、ロンドン組にシフトチェンジする時期に来ているのかもしれない。

 日本代表にはそのとき好調な選手を選んで欲しいのは、ファンの最たる願いではないだろうか。