反映

2012 年 11 月 6 日

 ファンは、スポーツの喜怒哀楽をよく知っている。

 人によっては場面や出来事をこと細かにおぼえており、嬉しかったこと、悔しかったこと、そういった感情の起伏こそファンをよりいっそうの虜(とりこ)にする。ファンからみた場合、前者は快楽に浸り、後者は恨みすら覚えるものだ。

 11月1日、札幌ドームで行われたプロ野球・日本シリーズは、2勝2敗の五分でむかえた第5戦で「世紀の大誤審」とよばれる出来事があった。

 四回、無死一塁で日本ハム・多田野数人投手がバントの構えをした巨人・加藤健選手の頭部ちかくに140キロ近いストレートを投じ、加藤選手は避けようと後方に倒れ込んだ。

 中継映像、リプレー映像を見る限りは頭部死球ではないようにも見えたが、審判は危険球とし退場を宣告した。日本ハム・栗山英樹監督の猛抗議も実らず、判定は変わることはなかった。

 疑惑の場面について栗山監督は『バントにいっていたのでストライク、空振りでしょ』と主張する一方、苦痛に顔をゆがめて倒れ込んだ加藤選手、心配した表情でベンチを飛び出してきた巨人・原辰徳監督。そうした行為も審判の心を揺れ動かすのに十分すぎるものだったに違いない。

 日本ハムの選手たちは『ヘルメットに当たった音じゃなかった』、『審判は最初、ファウルと言っていたが原監督が出てきてから判定が変わった』と言い、危険球退場となった多田野投手は『だます方もだます方。だまされる方もだまされる方』と吐き捨てた。

 五回、だましたとされる加藤選手が打席に立つと大ブーイングを受けるなか、2点を追加するヒットを放つ“結果”を残したことも忘れてはならない。

 九回にも2失点を追加された試合は2-10というスコアで終える。この結果により巨人が3勝2敗で王手をかけ、6戦目も4-3で勝利した巨人は4勝2敗で日本シリーズを制し、3年ぶり22度目の日本一となった。

 野球には興味がなく、日本シリーズをニュースでしか見なかった者からすれば、誤審は事件のように扱われ、それによって日本ハムは敗れた、と映る。また、両者のファンではなく“野球ファン”から見た場合、誤審があってもなくても巨人が勝っていた、とも映る。

 だが、ファンから見た場合、結果は喜びか悲しみでしかない。残酷な言い方を許してもらえるなら、喜んだ側は誤審そのものを忘れるが、悲しんだ側は日本一になるまで忘れないだろう。

 一方で、誤審もスポーツの一部だという者もいる。

 試合を行えば勝者と敗者という残酷な結果を作り、人間が裁く以上、誤審は起こってしまうものだ。くだされた裁きに憎しみを覚える者の気持ちは分からないでもない。
 だが、その先にあるチームの勝利に笑えるのもファンの特権でもある。


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